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外伝21「集合」

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2.再会

 一行がロムド王に従って建物に入っていくと、入口のすぐ近くで、二人の人物が待っていました。一人は赤と青の派手な衣装を着た背の高い道化で、白塗りした顔に一目見たら忘れられない奇抜な化粧をしていました。もう一人は長い黒髪に整った甘い顔立ちの青年で、白い服の上に青いマントをはおっています。

 フルートたちはいっせいに歓声を上げました。

「トウガリ! キース!」

 すると、道化のほうでも長い腕を振って大袈裟(おおげさ)にお辞儀を返すと、流れるような口上を始めました。

「これはこれは大変お久しぶりでございます、金の石の勇者の皆様方。トウガリめが皆様とご一緒させていただいたのは、忘れもしない一年と三カ月前のこと。ザカラス城へ遊びにおいでになったメーレーン王女様の元へ行った私めを、ザカラス城の崩壊から救い出してロムド城までお連れ下さったのは、他でもない金の石の勇者の皆様方でした。以来、寝ても覚めてもトウガリめは皆様方を忘れたことはございません。しかし、見れば皆様方もあの当時よりずいぶん大人になられたご様子。勇者殿やゼン殿はすっかり青年らしくなられたし、メール様やポポロ様は美しいご婦人に成長されました。まるで芋虫が脱皮の時を経て見事な蝶に変わった様(さま)を見るようで、トウガリめは感激に耐えません――」

 道化は驚くほどたくさんのことばを一気に話していましたが、ことばがリズミカルなので、不思議と聞きにくくはありませんでした。

 黒髪の青年のほうは、道化のように長々とは話さず、フルートたちを見回すと、笑顔でこう言いました。

「本当に久しぶりだ。また君たちに会えて嬉しいよ」

「あたいたちもだよ!」

「キースもトウガリも元気そうでよかった!」

 とメールやフルートが応え、全員は青年や道化と手を握って再会を喜びました。道化の正体は王妃を敵から守る間者、青年の正体は闇の国の王子なのですが、そんなことは互いにおくびにも出しません。ただ懐かしそうに手を取り合い、笑顔で話し合います。

 

 すると、ロムド王がトウガリやキースに言いました。

「我々はこれから四大魔法使いや勇者殿たちから報告を聞くところだ。そなたたちも同席するがいい」

「これはなんとお優しい陛下のおことば! 勇者殿たちのご帰還を歓迎して、トウガリめも精一杯芸をさせていただきましょう!」

 道化は、痩せて背の高い体でおどけながら、一行の前になり後ろになりして歩き出しました。どこから取りだしたのか、シャンシャンと鈴まで鳴らし始めたので、あたりは急に賑やかになります。

 フルートはキースと並んで歩きながら言いました。

「みんな変わりはありませんでしたか? アリアンや、グーリーや、ゾやヨは? まだここに一緒にいるんでしょう?」

「いるよ。君たちがぼくたちを闇の国から助け出してくれたからな。みんな、君たちにまた会えるのをとても喜んでいた。ただ、ここに姿を現すことができないんだ」

 とキースが答えたので、フルートたちは驚きました。

「姿を現すことができない? 何故?」

 アリアンは闇の民の娘、グーリーは闇の黒いグリフィン、ゾとヨも闇の怪物のゴブリンなのですが、フルートたちにとっては大切な友だちでした。どうしてだよ!? アリアンたちはどこさ!? とゼンやメールが口々にキースに尋ねます。

 とたんに、トウガリが踊るように近づいてきました。おどけたしぐさでフルートたちに身をかがめ、シャラシャラと派手に鈴を鳴らしながら話しかけてきます。

「騒ぐな。アリアンたちは出てきたくても出てこられないんだ。連中は闇のものだからな」

 先ほどまでの流れる弁舌が嘘のような、ぶっきらぼうな口調ですが、鈴音がうるさいので、周囲にその声は聞こえませんでした。

 キースは肩をすくめました。

「トウガリの言うとおりさ。ぼくは半分人間だから平気だけれど、アリアンたちはそういうわけにはいかない。ゾとヨなんて、さっきから君たちに会いたくてこの廊下にいるんだけれど、近づくことができなくて、隠れながらこっちを見ているんだ」

 えぇっとフルートたちは驚き、周囲を見回しました。彼らは城内の長い廊下を歩いていたのですが、そのはるか先の柱の陰から、小さな影が二つ、ちょこんと頭をのぞかせているのに気がつきます。それは赤毛の小猿でした。目をくりくりさせながら、こちらをじっと見つめています。

「ゾ、ヨ!」

 二匹はゴブリンではなく猿の姿でしたが、フルートは見間違えませんでした。思わず駆け出すと、小猿はぴょんと飛び上がり、大あわてで通路の奥へ走っていきました。フルートがそれを追いかけると、さらに奥へ逃げ込んで、姿を消してしまいます。

 そこへゼンやメールが追いついてきました。

「待てったら、フルート」

「金の石のせいなんだよ。追いかけたら、ますます逃げるってば」

「そういうことだ――。金の石の光を浴びれば、闇のものは消滅してしまうんだからな。怖くて、とても金の石には近寄れないのさ」

 とキースも追いついてきて、ささやくように言います。

 フルートは立ちすくみました。守りの金の石がはまったペンダントは、まだ鎧の内側にしまってあります。その状態でも近づくことができないほど、闇のものには金の石が恐ろしいのです。どうすればいいのか、とっさにはわからなくなってしまいます。

 

 すると、ロムド王が歩み寄ってきて言いました。

「金の石を手放したり眠らせたりするのは、得策ではないな。その石は勇者たちを闇から強く守っている。今後、その重要性はますます高くなるだろう。とはいえ、せっかくの友人たちと再会を喜べないのも気の毒なことだ――。赤の魔法使い、そなたの術でゾやヨやアリアンたちを守ることはできないか?」

 王に言われて、黒い肌に猫の瞳の魔法使いは、すぐに答えました。

「ワ、リオ、ス」

 赤の魔法使いが話すのは南大陸のムヴア語なので、フルートたちには理解できませんが、仲間の魔法使いや闇の王子のキースには意味がわかりました。キースがうなずいて言います。

「金の石の光を跳ね返す魔法か。それはいい。ぼくが彼らに守りの魔法をかけるって方法もあったんだけれど、そうすると、あからさまに闇の魔法をまとうことになるから、まずいだろうと思っていたんだ。かといって、光の魔法使いたちに魔法をかけてもらうわけにもいかなかったし。でも、赤さんなら、光や闇とは違う自然魔法の使い手だから、心配はないな。ちょっと待っててくれ。彼らを近くまで連れてくるから」

「ワ、ニ、コウ」

 と赤の魔法使いは言いました。次の瞬間には、キースと一緒に廊下から姿を消していきます。

 トウガリが大袈裟に驚いた真似をして言いました。

「これはこれは赤の魔法使い殿はキース殿の妹御をお迎えに行かれましたか。こうして目の前で拝見すると、魔法というのは実に便利なものでございますね。トウガリめが余興でやってみせる手品とは違ってタネも仕掛けもございませんから。もしも四大魔法使いの皆様方が手品師になれば、このトウガリめは道化の仕事がなくなって路頭に迷うことでしょう。とはいえ、魔法使いの皆様方のお役目はこのお城を魔法で守ること。手品などやって見せている時間はないので、トウガリめも職を失うことなく城でお勤めを続けられるというものです。さて、赤殿たちは迎えに行かれましたが、わたくしたちはここで赤殿たちのお帰りを待つべきでしょうか、それとも先に部屋へ行くべきでしょうか。陛下をあまり長い時間このような場所でお待たせするのは大変失礼なことではないのか、と先ほどから心配しているのでございますが……」

 立て板に水のように話し続ける道化に、鋭い目つきの老魔法使いは言いました。

「このまま待っておって良いじゃろう。すぐ戻ってくるはずじゃ」

 

 深緑の魔法使いが言ったとおり、赤の魔法使いとキースはすぐに廊下に戻ってきました。キースの横には長い黒髪に若草色のドレスの美しい娘が、頭上には黒い鷹(たか)が、足元には先ほど顔をのぞかせていた二匹の小猿が一緒にいます。

 アリアン!! とフルートたちはまた歓声を上げ、てんでに駆け寄りました。美しい娘の手を次々に握り、小猿や鷹にも声をかけます。

「会いたかったよ、アリアン! あたいたちさ、ついこの間、シルの町でロキに会ったんだよ! それを教えてあげたくてさ!」

「ロキは新しいご両親と、とても幸せそうに暮らしていたわ!」

「別れ際には、アリアンによろしく伝えてほしいって言ってたのよ……」

「おい、ゾ、ヨ! おまえらのその恰好、えらく似合ってるじゃねえか!」

「ワン、グーリーも元気そうですね。羽根のつやがとてもいいや」

 賑やかに話している仲間たちを、フルートは後から一人だけでゆっくり追いかけていきました。鎧の下の金の石が闇の友人に悪さすることを心配したのですが、フルートがすぐそばまで行っても、彼らは逃げ出しませんでした。小猿のゾとヨが、ちょろちょろっとフルートの肩に駆け上がり、癖のある金髪を引っぱって話しかけてきます。

「フルート、オレたちもう、金の石が怖くないゾ」

「赤い魔法使いがオレたちに魔法をかけてくれたんだヨ。こんなに近くまで来ても、平気なんだヨ」

「よかった」

 とフルートは笑顔になると、両肩のゾとヨの頭をなでてやりました。その目の前に、鷹を腕に停まらせたアリアンが来たので、また、にっこりと笑います。

 アリアンの正体は闇の民ですが、とてもそうは思えない、物静かで控えめな娘でした。伏し目がちの顔を上げ、フルートを見つめて、美しく笑います。

「私たち、このロムド城に来てから、本当に幸せに暮らしているわ。国王陛下にも他の皆様にも、とても良くしていただいているし。それもこれも、みんなフルートたちのおかげよ。私たちを闇の国から助け出してくれたから。本当に、ありがとう……」

 ピィィ、と同意するように黒い鷹が鳴きます。

 

 そんな一行と護衛の兵士たちの間を、道化のトウガリは行ったり来たりしながら、いやめでたい! なんという感動的な再会の場面! と鈴を振って言い続けていました。鈴の音が騒々しいので、フルートたちが話し合っている内容は、兵士たちには聞き取ることができません。

 すると、ゴーリスがすれ違いざま道化にささやきました。

「すまんな。あいつら、再会できたのが嬉しくて、周りを全然気にせずに話しているんだ」

 すると、トウガリは道化の顔で苦笑しました。

「早いところ安全な場所に移動してほしいですな。極秘にしておくべき内容まで口走られるんじゃないかと、さっきからひやひやし通しです」

 とささやき返してきます。

 すると、ロムド王が言いました。

「これで全員が揃ったようだ。ワルラ将軍は先に会議室で待っている。我々も急ぐことにしよう」

 懐かしい老将軍の名前を聞いて、また、わっと歓声を上げたフルートたちでした――。

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