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外伝20「トムラムスト」

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7.水着

 クリスの魔法で島の上から海へ移動した一行は、三匹のシードッグに分乗しました。灰色の毛並みのカイにはクリスとフルートとポポロ、黒い毛並みのマーレにはザフとゼンとポチとルル、ぶちのシィにはペルラと従姉妹(いとこ)のメールという組み合わせです。

 ところが、さあ潜ろう、という段になって、フルートがまた心配そうな顔になりました。

「待った。海底まではかなり深いんだよな? ぼくたちは海の民じゃないから、深海まで潜ると水圧で身動きが取れなくなるんだ。どうしよう」

「あたしがみんなに魔法をかけましょうか? 継続の魔法も使えば大丈夫だと思うけれど……」

 とポポロが言いましたが、フルートはすぐには返事をしませんでした。水圧を減らす魔法と継続の魔法を使ったら、ポポロの今日の魔法は終わってしまうので、それも困ると考えたのです。

 すると、クリスが言いました。

「ぼくたちが減圧の魔法をかけてやるよ。ぼくたちは大人の仲間入りをしたから、以前より魔力が強くなってるんだ。兄上にはかなわないけれど、君たち二、三人ずつくらいにならやってあげられるさ」

「それじゃ頼む」

 とフルートが答えたので、三つ子たちはそれぞれ自分のシードッグに乗っている友人に魔法をかけました。メールも水圧には弱かったので、ペルラに魔法をかけてもらいます。

 

 準備が整ったところで、彼らは海に潜りました。島々の周囲では波が泡立ち、急流がいたるところで渦を作っていますが、犬の上半身に魚の下半身のシードッグたちは、ものともせずに、ぐいぐい泳いでいきます。

 一行はその背中にしがみついて、周囲の景色を眺めました。彼らの下には海藻や珊瑚(さんご)におおわれた岩の斜面が広がっていて、たくさんの魚が泳ぎ回っています。魚はまるで海の中の森を飛び回る鳥のようです。

 斜面のほうは、海中で見れば、まさしく山脈そのものでした。高い山々が南から北に向かってずっと伸びていて、頂(いただき)は海の上に頭を出しています。海上に出ている部分が、トムラムスト諸島になっているのです。

「島の斜面に沿って潜っていってもらえるかな? ここが沈んだ大陸なら、その痕跡があるかもしれない。それも確かめたいんだよ」

 とフルートが言うと、クリスが答えました。

「それなら、遺跡を通ってやるよ。ご希望通り、ここが大陸だったという証拠の場所さ。ここからそんなに遠くないんだ」

 願ったりかなったりのことに、フルートたちは思わず興奮しました。シードッグたちが、彼らを乗せたまま、揃って同じ方向へ泳いでいきます。

 

 すると、黒いシードッグの上から、ゼンがフルートに話しかけました。

「しかし、なんだ。今度もポポロの色っぽい水着姿が見られるかと思ったのに、ちょっと期待はずれだったよな」

 フルートたちは人魚の涙のおかげで水中でも呼吸ができるので、いつもとまったく同じ恰好で海に潜っていたのですが、ポポロの星空の衣だけは、水に濡れたとたん、薄緑色の水着に変わっていました。ちょうどメールが着ているような、半ズボンに袖なしシャツという感じのデザインで、腰のまわりには丈の短いスカートがひらひらと揺れています。とてもかわいらしいのですが、以前、彼女がユラサイの王宮で池にはまったときに着たような、胸元や足がむき出しになった水着ではなかったのです。

 ポポロは真っ赤になって水着の上から自分の胸を抱き、フルートは怒ってゼンにどなりました。

「そんなもの期待するな! ポポロは見せ物じゃないぞ! 君はメールの水着姿を見ていりゃいいじゃないか!」

「ばぁか。こいつは年がら年中この恰好なんだぞ。水着も普段着もねえんだから、見飽きちまって、全然新鮮みがねえよ」

 ゼンの返事に、今度はメールが怒りました。

「見飽きた恰好で悪かったね! このどすけべ! あんたがそんな気持ちでいるから、ポポロの星空の衣も用心してこんな水着になったんじゃないか!」

「どすけべとはなんだ! 男なら色っぽい女子が好きなのは当然なんだぞ! 健全と言え!」

「あぁ、なに開き直ってんのさ!? あったま来た! シィ、あっちに寄っとくれ! ゼンをひっぱたいてやるから!」

「馬鹿、男なら当然だって言ってるんだ! フルートだって、平気そうに見せてるが、本当はがっかりしてるんだぞ! こいつもけっこう、むっつりすけべなんだからな!」

「な――どうしてぼくがそうなるんだ!?」

 とフルートが真っ赤になってどなると、ゼンが言い返しました。

「気がついてないと思うのか! さっき、ポポロの水着を見て、一瞬がっかりした顔しやがっただろうが! おまえもあっちの水着を期待していた証拠だぞ!」

「そ、そんなことあるか!!」

 フルートはますます怒り、ポポロはこれ以上できないくらい真っ赤になりました。水着を着た自分の体を堅く抱きしめます。

 泳ぎ寄ったシィの上から、メールがゼンに蹴りを入れました。距離があって手が届かなかったのです。ポポロの分ももう一発いけ! とフルートがメールに言います。

 騒動の後ろでは、二匹の犬たちが耳を伏せて話し合っていました。

「まったくもう。とても聞いてられないわ」

「ワン、これが闇の竜を倒す金の石の勇者の一行だって言うんだからなぁ」

 クリスとザフは、喧嘩をする一行を呆気にとられて眺めています。

 

 すると、メールの前に座っていたペルラが、燃えるような目をして言いました。

「そう、あなたたちってそんなに色っぽい水着が好きなわけ。じゃあ、これで文句ないでしょう?」

 言ったとたんにペルラの青いドレスが消え、代わりにごく丈の短い編み上げの水着が現れました。深く開いた胸元からは豊かな胸が半分以上のぞき、すんなりした長い足は付け根まで丸見えになっています。最低限の布地しか使っていないような服なので、編み上げになった部分からは、白い素肌が惜しげもなくのぞきます。ペルラはまだ十四ですが、もう大人のような体型なので、匂い立つような色気を放っています。

 これにはさすがのゼンも、もちろんフルートも、思わず真っ赤になってしまいました。とても彼女が直視できなくなって、目をそらしてしまいます。

 メールがあきれて言いました。

「何やってんのさ、ペルラ? こんなヤツらにサービスしてやることなんかないんだよ」

 クリスやザフも、あきれたり怒ったりしました。

「なんて恰好だ、ペルラ! はしたないぞ!」

「海の王族がそんな恰好をしていいと思うのか!? これを着ろよ!」

 魔法で出したマントのような上着が、ペルラへ飛んできます。

 ペルラは口を尖らせて怒りましたが、二対一では分が悪かったので、仕方なく上着をはおりました。上着の前はわざと留めなかったので、海水が流れるたびにひらめいて、合わせ目から大胆な水着がのぞきます。

 

 まるで大人のように成熟したペルラの水着姿に、ポポロはしょんぼりとうつむいていました。自分の水着姿がとても貧弱で子どもっぽく思えてしまったのです。今にも泣きそうな顔になっています。

 すると、急にフルートが振り向いてきました。薄緑の水着を着た彼女をじっと見つめ、ささやくように話しかけます。

「その水着もとても素敵だよ……。さっきは、がっかりしたわけじゃないんだ。君があんまりかわいかったから、見とれていたんだよ」

 ポポロはたちまちまた真っ赤になりました。フルートのほうも、言ってから赤くなっています。ありがとう、とポポロは蚊の鳴くような声で言いました。フルートは優しくそれを見つめ続けます。ペルラにはこれっぽっちも目を向けません。

 そんな二人の様子にペルラが歯ぎしりするのを見て、ルルが笑いました。

「ざまを見なさい。いい気味だわ」

「ワン、ルル、怖いですったら」

 とポチはうんざりしたように言いました――。

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