海王の三つ子たちは、まず、いとこのメールと抱き合って再会を喜ぶと、笑顔でゼンに向き直りました。
「本当に久しぶりだな、ゼン。叔父上の渦王を魔王から助け出したとき以来だから、えぇと、もう半年以上になるのか」
とクリスが言えば、ザフも言いました。
「君たちのことだから、あれからまたいろいろな冒険をしたんだろうな。どこで何をしてきたんだい?」
「ずいぶんあちこち行ったぜ。ヒムカシにユラサイに、ロムドにテトにカルドラに――南大陸や闇の国にも行ったな。魔王やデビルドラゴンを何度もぶっ飛ばしてきたぞ。で、今は天空の国のポポロの家にいるんだ」
とゼンが答えたので、クリスやザフは驚きました。
「闇の国や天空の国? 本当に、君たちはどこにでも行くんだな」
「また魔王と戦ったのか。君たちがこうしてここにいるんだから、魔王に勝ったってことだよね? やっぱり君たちはただ者じゃないなぁ」
「あたりまえだ。俺たちは金の石の勇者の一行だぞ!」
とゼンはいばりましたが、底抜けに陽気な口調なので、嫌みは少しもありません。
その横では、ペルラがフルートをまじまじと見つめていました。少し顔を赤らめると、意外そうに言います。
「ずいぶん背が伸びたのね、フルート。もうあたしとあんまり変わらないじゃない」
「ああ、うん。この二、三カ月でね、なんだか急に身長が伸びてきたんだ。そう言うペルラも、ずいぶん大人っぽくなったんじゃないかい? それともドレスのせいかな?」
とフルートが大真面目で言ったので、ペルラは思わず苦笑しました。
「あたしも十四歳になったから、大人の仲間入りしたのよ。でも、ドレスのせいだなんて言っちゃだめじゃない。そういうときにはただ、大人っぽくなって綺麗になったね、って誉めるものなの。フルートったら、相変わらず気がきかないんだから」
以前、彼らと一緒に北の海へ大遠征したとき、ペルラはフルートに恋をしたのですが、フルートのほうはそんな彼女の気持ちにまったく気がつきませんでした。今も、以前より背が高くなって男らしくなってきたフルートに、ペルラは胸がときめいていたのですが、フルートのほうではそれに全然気がついていません。
あのね、あたしはね――とペルラが話し続けようとすると、フルートのマントの後ろから手が伸びてきて、彼の腕をつかみました。
「フルート……」
と控えめな声が呼びかけます。
フルートは後ろを振り向き、すぐに笑顔になってペルラに言いました。
「ポポロだよ、ペルラ。海の王の戦いのときに会っているから、覚えているだろう?」
フルートに引かれて、小柄な少女がそうっと姿を現しました。赤いお下げ髪に大きな緑色の瞳、星のきらめきを抱いた黒い長衣を着ています。化粧もしていないし、飾りらしい飾りも何も身につけていないのに、何故かとても綺麗に見えます。
ポポロはペルラと目が合うと、すぐ目を伏せてしまいました。不安そうにフルートにいっそう身を寄せます。そんな彼女をフルートはほほえんで見下ろしていました。優しい優しいまなざしです。
ふん、とペルラはすぐに二人から目をそらしました。青いドレスの裾(すそ)を音を立てて引き寄せながら、彼らに背中を向けます。
「相変わらず仲がいいのね! あなたたちって、よくお似合いよ。まるで女の子が二人並んでるみたいだわ!」
つい憎まれ口をたたくと、たちまちフルートもポポロも赤くなりました。フルートのほうはちょっと傷ついたような顔もします。
ところがクリスとザフが言いました。
「それは違うぞ、ペルラ。フルートはもう、あんまり女みたいに見えないじゃないか」
「そうだよ。体つきだって男らしくなってきてるしさ。そりゃ、ゼンやクリスには及ばないけれど」
ストレートなもの言いは海の民の特徴です。ペルラは自分の兄弟をにらみつけます。
すると、ゼンが混ぜっ返しました。
「いいや、そうでもないぜ。ついこの前だって、こいつは南大陸に渡るのに船の中で女装してよ――」
フルートは怒りました。
「余計な話をするな、ゼン! そんなことを言うなら、あの時、南大陸に上陸するのに君がどんな恰好をしたのかも、彼らに話すぞ!」
「あ、なんだと、こら!? んな話してみろ、ぶっとばすぞ!」
「人のことなんか言えないだろう、って言ってるんだよ!」
フルートとゼンが口喧嘩を始めたので、メールはあきれた顔になり、ポポロはおろおろしました。ペルラが変なことを言うからだぞ、とクリスとザフに叱られて、海の王女はいっそう拗ねます。
すると、そこへ風の犬のポチとルルが飛んできました。まだ離れた場所から嬉しそうに声を上げます。
「ワン、やっぱり海王の三つ子たちだった! 海にシードッグがいるから、もしかしたらって思ったんだ!」
「久しぶりね、みんな! 元気でいた!?」
二匹が海上を旋回したので、波間に浮いていたシードッグが喜びました。
「やあ、久しぶり! 君たちこそ元気そうだね!」
「ルル、また会えて嬉しいよ!」
「ポチさん、お変わりありませんでした!?」
灰色、黒、ぶちの三頭のシードッグが口々にいいます。
「そこじゃ話が遠い。みんな、こっちに来いよ」
と島の上でクリスが手を振ると、海上からシードッグが消えました。次の瞬間には三匹の犬たちがその足元に現れます。二匹はやや大きめの雄犬、もう一匹は雌の小犬で、それぞれ灰色、黒、ぶちの毛並みをしています。シードッグが犬の姿に変わったのでした。
そこへポチとルルも舞い下りて、犬の姿に戻りました。こちらは白い雄の小犬と長い茶色の毛並みの雌犬です。
五匹はすぐに集まり、互いに匂いを嗅ぎ合ったり体をすりつけあったりして、再会を喜びました。彼らも海の王の戦いで一緒に戦った友人たちなのです。
「ルルはまたいっそう綺麗になったなぁ。久しぶりに会うと、どきどきするね」
と黒犬に言われて、ルルは尻尾を振って笑いました。
「お上手ね、マーレ。でも嬉しいわ、ありがとう」
ポチにはぶちの小犬が話しかけていました。
「すごく大きくなったんですね、ポチさん。前はあたしと一回りくらいしか違わなかったのに、今は二回り以上大きいみたい」
「ワン、そうだね。前よりは大きくなったかもね。ぼくは大人になると、けっこう大きくなる種類の犬らしいんだ。でも、シィは小さくても、相変わらず、すごくかわいいよ」
ポチに誉められてシィが恥ずかしそうに喜ぶと、とたんに灰色の雄犬がずいと出てきました。
「やあ、ポチ、ルル、本当に久しぶり。また会えて本当に嬉しいよ」
嬉しいよ、と言いながら灰色犬がにらみつけてきたので、ポチは思わず笑いました。
「ワン、カイも元気そうだね。時々ルルと話していたんだよ。どうしているかな、って」
と答えてから、小さな声になってカイに言います。
「ワン、で、どうなの? シィとはうまくいくようになったかい?」
灰色犬のカイは、や、と身をひきました。人間ならさしずめ顔を赤らめたところです。頭を下げると、ポチの耳元に口を寄せてささやき返します。
「まあ、それなりにね……。まだ正式にプロポーズはしてないけど、近いうちにって考えてるよ」
「ワン、それは良かった」
とポチは尻尾を振り返します。
すると、クリスがフルートたちへ尋ねてきました。
「君たちはここに調査に来たっていったよな? ここはトムラムストだぞ。こんな場所に何を調べに来たんだ?」
なんだか意味ありげな言い方に、ゼンは目を丸くしました。
「なんだ? トムラムストってのは、やばい場所なのか?」
「知らずに来たのか? このトムラムストの付近には、あちこちに危険な海域があるんだ。そこには、父上たちの兵士たちだって用がなければ近づかないんだぞ」
「呪われた海域なのさ。奇妙で凶暴な生物もたくさん棲みついていて、増えすぎると海域の外にも出てくる。そうすると大きな被害が出るから、定期的に調査をして、海域の外にいる奴を駆除するんだ。ぼくたちは今回、それを父上から言いつかってきたんだよ」
クリスとザフの話に、フルートたちは驚きました。
「呪われた海域ってことは、闇の場所だということか!?」
「その海域ってのは、どのあたりにあるんだよ!?」
フルートやゼンが急に身を乗り出してきたので、ペルラは首をかしげました。
「なぁに? そのくらいのこと、あなたたちなら怖がる必要もないじゃない。あなたたちは魔王にも勝つ、金の石の勇者の一行なのに」
すると、メールは首を振って答えました。
「あたいたち、天空の国で闇大陸って場所を知ってさ、トムラムストがその大陸じゃないかと思って、調べに来たんだよ」
「そこに行けば、デビルドラゴンを倒す手がかりがつかめるかもしれないんだ。呪われた海域について、もっと詳しく教えてくれないか?」
海王の三つ子たちへ、フルートはそう言いました――。