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外伝12「金葉樹の城」

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7.乱入

 「なんだ、あれは!?」

 と人々は驚愕しました。こともあろうに、ロムド城の大広間に巨大な怪物が現れたのです。大勢の招待客が集まっているど真ん中です。

 怪物は二本足で立っていました。長く太い鼻と巨大な牙は象によく似ていますが、象よりはるかに大きく、天井に届くほどの背丈があります。と、その頭がシャンデリアにぶつかりました。音を立ててシャンデリアが壊れ、火のついた蝋燭やガラスの破片が降ってきます。

 人々は我に返りました。悲鳴を上げて会場から逃げ出します。

 ロムド王は玉座から立ち上がりました。顔色を変えて命じます。

「皆を守るのだ! 衛兵! 四大魔法使い!」

 王の前にゴーリスが飛び出しました。剣を抜いて言います。

「陛下、この場からお逃げください! 早く!」

 道化の姿のトウガリは、王妃や王女を抱えるようにして大階段へ急がせています。

 四大魔法使いも会場に姿を現しました。

「信じられませんな! 出てくる直前まで何も感じませんでしたぞ!」

「いきなりどこかから入ってきたんじゃ。幽霊のように現れおって。城の守りを抜けてくるとは、とんでもない奴じゃ」

「ウダ、ゾ! ナイ!」

「そうだ、象の怪物だ! 青、抑え込め! 赤は招待客の避難! 深緑と私であいつを倒す!」

「承知!」

 白の魔法使いの指示に他の三人がいっせいに答え、自分の杖を握り直しました。とたんに巨大な怪物の動きが止まります。武僧の魔法使いが顔を真っ赤にして杖を突きつけていました。将棋倒しになりかけた客たちが、ふわりと見えない力に受け止められ、出口へとじゅんぐりに送られていきます。その間に白と深緑の魔法使いが怪物へ走ります。

 

 ラヴィア夫人が占者の青年を叱りつけていました。

「これほどの怪物に、何故気がつかなかったのです! 一番占者のはずのあなたが!?」

 ユギルは青ざめた顔で怪物を見上げていました。

「直前までまったく何も感じませんでした。いきなりやってきたのです。戦闘中でもなければ、こんなことはめったに――」

 言いかけてユギルは唇をかみました。この状況では、何を言っても言い訳にしかなりません。駆けつけてきたリーンズ宰相やレイーヌ侍女長にラヴィア夫人を託して、彼らが避難していく姿を見送ります。

 すると、どこからか、うふふっ、という声が聞こえてきました。女のような笑い方ですが、若い男の声です。

「みんな、驚いてる驚いてる。びっくり訪問大成功かなぁ。うふふふ……」

 それは、オリバンにはあまりにお馴染みの声でした。思わず大声を上げます。

「ランジュール!! 何故貴様がここにいるのだ!?」

 動かなくなった象の頭上に一人の人物が乗っていました。赤い長い上着を着た、細身の青年です。高い場所から人々を見下ろしてにやにや笑っていますが、その顔も姿も半ば透き通っています。この青年は幽霊なのです。

「はぁい、愛しい皇太子くん、お久しぶりぃ。元気だったぁ?」

 と投げキッスを送ってきます。

 オリバンは思いきり顔をしかめてどなり返しました。

「何故、貴様がここにいると聞いているのだ! どうやって城に入り込んできた!?」

「ボクは幽霊だよぉ。どこに出入りするのも自由自在さ。ボクはこの世のものじゃないから、名高い占者だってボクのすることは先読みできないもんねぇ」

 そういうことか、とユギルは歯ぎしりしました。彼はこの世のものを象徴の姿で見て占いますが、幽霊は象徴を持たないので占いの場に現れてきません。しかも、このランジュールは魔獣使いです。城に入り込んだところで魔獣を呼び出したのに違いありませんでした。

 

「皇太子くんが婚約したって噂を聞いたんだよねぇ。ボクってものがありながらさぁ、あんまりじゃない? だから、婚約者の顔を見に来たんだけど――」

 何も知らない者が聞いたら思いきり誤解しそうなことを言いながら、ランジュールは横目でセシルを見ました。

「そぉっかぁ。キミが皇太子くんの婚約者だったんだねぇ、メイの王女様。そう言えば、メイにいた頃から妬けるくらい仲良かったもんねぇ。ふぅん」

 糸のように細い目が、きらりと剣呑(けんのん)に光りました。ユギルが叫びます。

「お逃げください、セシル様、殿下! 殺されます!」

 とっさにオリバンはセシルを背中にかばいました。二人とも祝宴の衣装なので武器は何もありません。

 すると、いきなり、うおっという声が上がりました。青の魔法使いが象の怪物を抑えきれなくなって跳ね飛ばされたのです。また自由になった怪物が、長い鼻をオリバンとセシルへ振り下ろします。

 その前に白の魔法使いが飛び出しました。杖を掲げて鼻を受け止め、声を上げます。

「早くお逃げください! この場は我々が!」

 パオォォ、と象の怪物がほえました。巨大な足を踏み鳴らすと、城の大広間が揺れに揺れ、天井のシャンデリアが今にも落ちそうなほど動きます。

 深緑の魔法使いが杖を突きつけました。象へ魔法攻撃を繰り出そうとします。

 ところが、そんな老人にいきなり飛びかかってきたものがありました。たくさんの白ウサギです。二本の角を生やし、牙を持ち、大きな赤い一つ目をしています。牙にかまれたとたん老人がよろめきました。一つ目ウサギは毒を持っていたのです。

「深緑!」

「セ!」

 青の魔法使いと赤の魔法使いは駆けつけようとしましたが、ウサギが人々にも襲いかかるので、それを防ぐのに手一杯になりました。大広間に悲鳴と恐怖の声が響き渡ります。

「うふふ、そうそう。祝宴は思いっきり賑やかにいかなくちゃねぇ」

 一つ目ウサギを呼び出したランジュールが、上機嫌で言います。

 

 すると、急にセシルが動きました。オリバンの背中の陰から飛び出し、ウサギの群れの前に立って叫びます。

「下がれ!!」

 とたんにウサギたちがいっせいに飛びのきました。ざーっと音を立てながら後ずさり、大広間の一カ所に集まって、キイキイと怒ってわめきます。

 それを見据えてセシルはまた言いました。

「黙れ! 誰にも手出しは許さない! ここから立ち去れ!」

 強い声でした。口調もいつもの男言葉に戻っています。ウサギたちの一つ目に恐れの色が浮かびました。白い毛皮の体を震わせ、さらに一カ所に集まると、あっという間に姿を消してしまいます。

「あぁぁ、またぁ!」

 ランジュールが象の上から声を上げました。

「キミ、やっぱり魔獣使いだね、お姫様! せっかく集めた毒ウサギたちを逃がさないでよぉ! そんなことするなら、こうしちゃうからね!」

 象の怪物が鼻を振り回すと、白の魔法使いが跳ね飛ばされて床にたたきつけられました。象の怪物は四大魔法使いにも抑えきれないほど力が強かったのです。

「いかん!」

 青の魔法使いが飛び出し、セシルを踏みつぶそうとした象の足を魔法で止めました。女神官が床の上から叫びます。

「深緑! 怪物の正体を見抜け!」

「承知じゃ」

 深緑の魔法使いはウサギの毒を自分で消していました。また杖を突きつけて、鋭くにらみます。

「正体を見せんか、象の怪――」

 

 その目の前に今度は男の顔をした鳥が現れました。牙をむいてギャアアと鳴きます。人面鳥です。視界をさえぎられて、深緑は見破りの魔法が使えなくなりました。魔法を繰り出した青と赤の魔法使いが、人面鳥に攻撃を跳ね返されて驚きます。

 ランジュールが楽しそうに言いました。

「無駄だよぉ。これは魔法使いのお嬢ちゃん対策に捕まえた特別な魔獣だからね。魔法は全然効かないのさぁ」

 人面鳥が魔法使いの老人を爪でひっかき、大きな翼で打ち倒して舞い上がりました。象の怪物の上にいるランジュールへ飛んでいきます。

「そうそう。おいで、ジンちゃん。強化してあげるからさぁ」

 幽霊の青年がふわりと浮き上がり、やって来た人面鳥の中に飛び込みました。たちまちその顔がランジュールの顔に変わります。

「さあ、これでメイのお姫様にはジンちゃんを追い返せなくなったよ。なにしろ、ボクが一緒にいるんだからねぇ。ゾーちゃんは思いっきり暴れていいよぉ。ボクをコケにした皇太子くんも、他の人間たちも、大広間ごと押しつぶしちゃっていいからさぁ」

 うふふふふ、と危険に笑いながら、人面鳥になったランジュールはまた舞い上がりました。一方、象の怪物は命じられたとおり大暴れを始めていました。長い鼻を振り回してシャンデリアや壁や天井を壊し、地響きを立てて玉座に向かいます。そこにはロムド王がいました。避難を勧められても、大広間に踏みとどまっていたのです。

 王を守るゴーリスが鼻の一撃で吹き飛びました。再び振り上げられた鼻が、今度は王をたたきのめそうとします。

 すると、そこに細身の青年が飛び込んできました。鼻に背中を直撃されてその場に崩れます。長い銀の髪がきらめきながら舞い落ちます。

「ユギル!!」

 ロムド王とオリバンは同時に声を上げました。占者の青年は逃げ切れなかった王を自分の体でかばったのです。床に倒れて動かなくなります。

 オリバンはとっさに駆け出しました。床に落ちていたゴーリスの剣を拾い上げると、怪物に切りつけます。巨大な足から血が噴き出し、バオォォ、と象が叫びます。

 その瞬間、ランジュールの歓声が響きました。

「離れたね、皇太子くん! メイの王女様の命はいただいたよぉ――!」

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