「新海刑事、課長がお呼びですわ」
連夜の張り込みの疲れで、デスクで眠りこけていた俺は、お茶くみの乃木妙子巡査に肩をゆすぶられて、ようやく目を覚ました。
「な、なんだい」
寝ぼけまなこで見上げる俺に、乃木巡査があきれ顔でくり返した。
「課長がさっきからお呼びになっているんです」
「えっ」
俺はあわてて飛び起きた。課長という一言で頭がすっきりした。というより顔から血の気がさっとひいた。
俺の様子を見て、クスッと笑って彼女は
「徹夜続きなんだから、どっかの喫茶店で少し休んでくればいいんですよ。ほんとに要領が悪いんだから」
と、小声で教えてくれた。
「こら!新海、早くこんか!」
岡崎課長の怒鳴り声が飛んでくる。
「は、はい」
俺は窓際にある課長のデスクに急いで駆け寄り、顔色をうかがった。
曇り、雨の降る確率70%というところだ。
Illustrated by 魔久部
「いくら徹夜続きとはいえ、デスクで居眠りとはいい度胸だな、新海刑事」
課長のギョロ目が、ジロリと俺を睨み付ける。この道30年の眼光はさすがに一味違う。
「はあ、すみません」
俺はひたすら、頭を下げた。
「まあいい。ところで、今かかってる事件一区切りついたそうだな」
「ええ、もう坂本先輩一人で大丈夫だそうです」
「実はさっき、第三分署から連絡があってな。妙な事件が連続しとるから、一人応援が欲しいそうだ。お前行ってくれ」
「は。分かりました」
すぐに部屋を飛び出そうとした俺を見て、課長が慌てて言った。
「こら、待たんか。こいつが資料だ。急がんでいいそうだから、持って帰って家でじっくり読んでこい」
「急がなくてもいいって・・・。いったいどんな事件なんです?」
俺は拍子抜けして、尋ねた。
「なんでも、同じ型のアンドロイドが六件連続して壊されてるらしい」
「アンドロイド---ですか」
「なんでそんなことで、わざわざ出向かなけりゃいかんのか、そう言いたいようだな」
図星をさされて、ギクリときた。
「い、いえ、別に」
「なに、お前さんも特捜課に配属されて三ヶ月、キツイ事件にばかりまわされてきたからな。ここらで一つ、らくな事件を受け持たせてやる。それから、疲れてるようだから、今日はもう帰っていいぞ」
俺は耳を疑った。
課長の口から、こんなセリフが出てくるとは・・・。
「ありがとうございます」
ウキウキした気分で部屋を出ようとした俺の背中に、再び岡崎課長の怒声が飛んだ。
「こら、資料持っていかんか。この間抜けが!」