曇り空の下。俺は一人で街を歩いていた。
梅雨が近づいてるんだなぁ……雨が降りそうだ。
ま、俺には関係ないけどさ。
街を大勢の人が歩いていく。男も女も、若者も年寄りも。
幼稚園バスから降りてきた子どもが、出迎えの母親を振り切ってアパートに走っていく。母親が大声で呼び止めてる。
ま、俺には関係ないけどね。
この街とももうすぐお別れかぁ……。1年と3カ月。早かったような、長かったような。
ま、それももうどうでもいいんだけどさ。
そんなことを考えながら歩き続けていたら、急に後ろから服を引っ張られた。
振り向くと、おかっぱ髪の子どもが立っていた。女の子――いや、男の子か? ちょっと見ただけじゃ、どっちか区別がつきにくい。白い服に白い半ズボンをはいて、手にはぞうさん模様の赤いバケツを持っている。
なんだこいつ?
すると、その子が言った。
「ねえ、お兄さん。手伝ってよ。人助け――ううん、天使助けしてくれない?」
はぁ? 天使助け?
俺がとまどってると、その子は赤いバケツを差し出してきた。しょうがないから俺はそれを受けとった。
すると、その子の体が急に光り出して――
気がつくと、もうどこにも姿が見えなくなっていた。受けとったはずのバケツも、俺の手から消えていた。
なんだ、今の……? 夢?
俺はぽかんと立ちつくしてしまった。