ピエロの衣装、よし。
ミニハンドベル、よし。
プレゼントの袋、準備よし。
チッピィを肩にのせて。胸に赤いバラを挿して。そうそう、眼鏡も忘れずに。
これで準備万端整った。
ハンドベルをいっぱいに振ると、リンリンリーンと音色が響く。クリスマス色に飾られた街角で、ぼくは声をはりあげた。
「サンタだよ、サンタだよ! ピエロの恰好しているけれど、サンタなんだよ! 袋の中にはプレゼントがいっぱい。いっぱいだけど、あなたにあげるのはたったひとつ。世界にひとつだけの、素敵なプレゼントだよ! さあ、ほしい人はいないかい? 早い者勝ち、もらいにおいで!」
あれ……? 誰も寄ってこないな。なんでだろう?
え、なんだって、チッピィ? こんな変な恰好をしたサンタなんているわけないだろうって? それに、得体の知れないおっさんからモノをもらう奴なんていないぞって? おっさんって、ぼくのことか? ぼくはまだそんな歳じゃないぞ! まだたったの……え、充分おっさんの歳だって?
ぼくはリンリンリーンと何度もベルを鳴らし、道行く人に呼びかけた。
「サンタだよ、サンタだよ! ピエロの恰好しているけれど、サンタなんだよ! 袋に入ってるのは、本物のプレゼントだよ! きっと幸せになれること請け合いだよ! ひとつ、あなたにあげるよ。ほしい人はいないかい!?」
だけど、やっぱりぼくからプレゼントをもらおうとする人はいなかった。
小さな子どもが笑顔で駆け寄ろうとしたけれど、すぐに母親に引き戻された。
「あれはサンタじゃないでしょう! あんな得体の知れない人に近づいちゃだめよ!」
子どもを叱る声が聞こえてくる。ぼくはほんとにサンタなんだけどなぁ。
しょうがないから、ずっと呼び続けていたら、通りに面した店から主人が顔を出した。あっ、もらってくれますか? 大人にだってプレゼントをあげますよ。
すると、店主にどなられた。
「うるさい、うちの前で営業妨害だ! あっちへ行け! 警察に通報するぞ!」
ご、ごめんなさい! ぼくはほうほうの体(てい)で逃げ出した。
あぁあ、誰ももらってくれなかったな。やっぱり、ぼくはサンタには見えないのか。この袋のプレゼント、みんなにもらってほしいんだけどなぁ。しかたない。明日また出直すとしよう。
ぼくは袋を手に下げたまま、とぼとぼ家に帰っていった。