ライトパンサーはあたしたちのすぐ目の前にいた。まるで戦艦みたいに巨大な豹。いろいろなものを吸収しながら大きくなっていったという。
すると、ビオがあたしをかばうように前に出て言った。
「だめだ、メル! この人は食べちゃいけない! 食べるのはぼくだけにするんだ!」
あたしはあわててビオにしがみついた。
「だめよ、ビオ! だめ――!」
ライトパンサーは、そんなあたしたちを見つめていた。何故だか、すぐには襲いかかってこない。
やがて、声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん――」
メル! とビオが叫ぶ。
すると、あたしたちの目の前に人が姿を現した。宇宙空間なのに、青いリボンのついた白いシャツとスカートを着ただけの女の子。
実体じゃないんだわ。ライトパンサーと同じように、透き通っている。
この子がメル……。
ビオが言った。
「迎えに来たんだ、メル! 今までずっと一人にしていてごめんよ――! だけど、この人は関係ないんだ。彼女は助けてくれ!」
あたしを突き放して離れていこうとする彼を、あたしは必死で止め続けた。少女に向かって叫ぶ。
「メル、だめよ! お兄さんを食べたりしちゃだめなの!」
メルが首をかしげてあたしたちを見つめた。その後ろで、光の豹も頭を傾ける。
また声が聞こえてきた。
「もう食べないよ。お兄ちゃんのことも、その人のことも……。だって、食べちゃったら、あたし、もっとひとりぼっちになっちゃうもの」
メル!? とビオが驚く。
メルが話す。
「ホントは食べようと思ったの。だって、宇宙は本当に広くて淋しいんだもん。お兄ちゃんと一緒にいたかった。だけど、あたしたちが食べると、人は消えてしまって、いなくなるの。あたしたちは前より一人きりになっちゃうのよ。それはもっと淋しいもん――」
少女が哀しげに笑う。
メル……
すると、メルがあたしに尋ねた。
「お姉さん、お兄ちゃんのこと、好き?」
あたしは一瞬うろたえた。そ、それは――
少女の目はあたしを見ていた。真実を見抜こうとするように、まっすぐに。だから、あたしも正直に答えた。
「好きよ。まだ出逢ったばかりだけど、とても好き。絶対に死んでほしくないと思ってるわ」
ビオが驚いたようにあたしを見た。ヘルメットの中で顔を赤らめている。
メルがにっこりと笑った。
「よかった。お兄ちゃんもひとりぼっちじゃなくなるね……。あたしは大丈夫よ。だって、ライティが一緒にいるから」
メルの後ろでライトパンサーが急に縮み始めた。みるみる小さくなって猫くらいの大きさになると、メルの足下にすり寄ってニャアと鳴く。
あっけにとられたあたしの隣で、ビオが我に返ったように、持っていたものを投げた。クッキーの袋と、キャンディの形の髪飾り。
それは、少女と猫の手前で燃えるように光って消えていった。ライトパンサーが「食べた」んだわ。
次の瞬間、同じものがメルの片手と髪の上に現れた。
「ありがとう、お兄ちゃん」
とメルが嬉しそうに言った。
「あたし、時々自分が何かわからなくなりそうだったの。メルなのか、ライトパンサーなのか。ライトパンサーになると、なんでも食べたくてしょうがなくなっちゃうのよ。でも、あたしはメルなんだよね。忘れそうになったら、これを見て思い出すね。そして、ライティに言い聞かせるわ。人を食べたりしちゃだめなのよ、って――」
猫がジャンプした。メルがそれを受け止めて頬ずりする。
すると、ふたりの姿はまた巨大なライトパンサーに変わった。身をひるがえして走り出す。
「メル!!」
追いかけようとするビオをあたしは抱き続けた。
「行っちゃだめ! 行かないで――!」
ビオは振り向き、顔を歪めてあたしを抱きしめた。まるで泣き出しそうに。
宇宙を駆ける光の豹。
遠ざかり、緑色の輝きになって。
やがて、流星のように闇の彼方へ消えていった――。
――The End――