「勇者フルートの冒険・2 〜風の犬の戦い〜

1.東の国の使者

さて、フルートたちがメデューサを退治して、国に平和を取り戻してから、1カ月くらいがたちました。
フルートは子犬のポチとお父さんとお母さんと、毎日家で平和に暮らしていました。

不思議なことがひとつだけありました。
魔法の力を持つあの金の石。あれが、冒険から帰ってきたら、灰色の普通の石ころに変わってしまっていたのです。
もう、怪我を治したり光を出したりすることもありません。
フルートはがっかりしましたが、泉の精のおじいさんからもらった大事なものだったので、自分の机の引き出しに、大切にしまっておきました。


ある日のことです。
フルートが子犬のポチをつれて散歩に出ていると、町で見知らぬ旅の男の人に出会いました。
男の人はフルートを呼び止めて言いました。
「これ、そこの子ども。ちとたずねるが、勇者フルート殿の家はこのあたりだろうか?」
どうやら、男の人は、フルートがその勇者だということに気がついていないようです。
フルートはなんと答えたらよいか困ってしまいました。
「どうしようか?」
とポチに小さな声で言うと、ポチは
「とにかく家につれていってみましょうよ」
と小さな声で答えました。
そこで、フルートは先に立って、男の人を家まで案内しました。

家につくと、男の人は「ごめん、勇者フルート殿はおいでかな?」と言って家に入りました。
そして、部屋をきょろきょろ見回して、がっかりしたような顔をしました。
「やれやれ。フルート殿はお出かけらしい。どこに行かれたのだろう」
そこで、フルートは答えました。
「いいえ、フルートはここにいますよ。ぼくがフルートです」

「えっ?」と旅の男の人は、目をまん丸にしてフルートを見つめました。
全然信じてくれません。
そこで、フルートは自分の部屋に行くと、壁にかけてあった炎の剣を持ってきました。
男の人は「これこれ、子どもがそんなものを振り回しては危ない。やめなさい」と言いました。
フルートは「いいから、一緒に来てください」と言うと、男の人と一緒に庭に出ました。

庭には、フルートのお父さんが途中まで割った薪が、薪割り台の上にのっていました。
フルートは炎の剣を抜くと、かまえて振り上げました。
「こ、こら、危ない危ない! やめなさい!」
男の人があわてて言いましたが、フルートはかまわず、剣を薪に振り下ろしました。
ズパッと薪はまっぷたつになり、次の瞬間、ボウッと火を吹いて燃え出しました。
「お、お、お、なんと!?」男の人はびっくり仰天。

すると、ポチが言いました。
「これが炎の剣の力です。ね、わかったでしょう? ここにいるフルートが、本物の勇者フルートなんですよ」
「や、や、や! 犬がしゃべった!」と男の人はまたびっくり。
「いやいや、そういえば、勇者フルート殿には人間のことばを話す犬がお供をしていたと聞いたことがある。そうか、あなたが本物の勇者フルート殿だったのか。いや、これはまったく、失礼つかまつった」
男の人はフルートに向かって深々と頭を下げました。

そして、男の人はフルートに話し始めました。
自分は、隣にある東の国の王様の家来であること。今、東の国では恐ろしい事件が毎晩起こっていること。3匹のメデューサを退治した勇者フルートならば、きっと、この事件も解決してくれるだろうと、東の国の王様が考えて、自分をお使いに出したこと。
そして、男の人はフルートに言いました。
「お願いです、フルート殿。どうか私と一緒に東の国に来て、私どもをお助け下さい」

フルートはちょっと考えました。
「恐ろしい事件って、どういう事件ですか?」
男の人は声を低くして言いました。
「毎晩毎晩、国のあちこちで人が死ぬのです。肩から背中にかけて、刀で切られたような傷があります。でも、誰もその犯人を見ていないのです。ただ、強い風が吹いていただけだと言うばかりです。近頃では、国中の人たちが見えない殺人鬼を恐れて、夜になると誰も一歩も外に出なくなってしまいました」

「モンスターのしわざかな?」とフルートはポチに言いました。
「そうかもしれませんね」とポチも言いました。
「お願いです! どうか助けに来てください!」と男の人がフルートの前で頭を下げました。

さあ、フルートは何て返事をしただろうね。承知したかな?

うん、そう。もちろん、フルートはOKしたよ。
「わかりました。東の国に行きましょう。・・・でも、ちょっとだけ待ってくださいね。今、ぼくのお父さんとお母さんは町に買い物に出かけているんです。ちゃんとお父さんたちに話をしてから出かけないと」
男の人は大喜び。
「ありがたい、ありがたい。王もさぞお喜びになられることだろう。それでは、私は一足先に東の国に帰って、報告しております。フルート殿、どうか東の国の城においでくださいね」
そういって、男の人は大急ぎで東の国へ帰っていきました。


というところで、長いから二つに分けますね。
この続きは2章へ。

(2003年3月3日)



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