「勇者フルートの冒険」

1.魔法の金の石

ある国の小さな町に、ひとりの男の子がいました。
名前はフルート。

フルートの住む町のすぐ近くには、魔の森と呼ばれる恐ろしい森がありました。
そこには魔物がたくさんいて、森の奥の泉には魔物のボスがすんでいると言われていました。
また、泉には黄金の石がたくさんあるという言い伝えがありました。それを目当てにたくさんの人たちが森に入りましたが、誰ひとりとして石を持って帰ってきた人はいませんでした。


ところがある日、フルートの友だちのわんぱく坊主3人が「この森に肝試しに入ろう」と言い出しました。
森の奥の泉まで行って、勇気の証明に金の石を持って帰ってこよう、と言うのです。
わんぱく坊主たちはそれぞれに家からめん棒や果物ナイフ、お鍋の蓋などを武器や防具に持ってきました。
フルートも愛用のパチンコを持ってきました。
そして、大人たちには内緒で、こっそりと森の中に入っていきました。

森の中は昼でも薄暗くて気味の悪いところでした。
木々の間からギャッギャッとおかしな鳥の鳴き声のようなものが聞こえてきます。
とたんにわんぱく坊主のひとりが、真っ青になって森から逃げ出してしまいました。怖くなってしまったのです。

フルートと2人の友だちは、寄り添いながら森の奥へ奥へと進みました。
すると突然、森の中から一羽の鳥が襲いかかってきました。
ギャアギャア鳴きながら、子どもたちをつつこうとします。
またひとり、友だちが泣きながら逃げ出してしまいました。
フルートともうひとりの友だちは、必死になって鳥と戦いました。
鳥の鋭いカギづめが、フルートの頬をひっかきました。
友だちはめちゃくちゃに果物ナイフを振り回して鳥をやっつけようとしていました。
フルートは足下の小石を拾い上げると、パチンコで鳥を撃ちました。
石は見事に鳥の目玉に当たり、鳥は鳴きながら逃げていきました。

ところが、友だちがその場に座り込んで動けなくなってしまいました。
「お腹が痛い」と言います。怖くてお腹が痛くなってしまったのです。
仕方がないので、フルートは友だちを残して、ひとりで森の奥に進んでいきました。


しばらく行くと、急に森がひらけて、目の前が明るくなりました。
森の中に大きな泉があって、そこにさんさんと太陽の光が降りそそいでいました。
泉のまわりの石がキラキラと金色に光っています。金の石です。
フルートはここまで来た証拠に、金の石をひとつ拾おうとしました。

とたんに、ごぼごぼと泉の真ん中から泡が立ち始めて、気味の悪い声が聞こえてきました。
「わしの泉の石を、断りもなく持ちだそうとしているのは、誰だ!?」
フルートは驚いて石を元の場所に返すと、正直に謝りました。
「すみません、あなたの石だとは知らなかったんです。ぼくたちは肝試しでこの森に来ました。勇気の証明に、この泉から金の石をひとつ持って帰ることになっていたんです」

すると、泉の水が盛り上がって、中からひとりの人が現れました。
ひげも髪も長くて真っ白なおじいさんです。
おじいさんは泉の上に立ちながら、じろじろとフルートを見回して、言いました。
「なるほど、おまえには本当の勇気があるらしい。この泉までたどりつくこと自体、勇気がなくてはできない。まだ子どもなのに大したものだ。よかろう、その勇気に免じて、泉の石をひとつおまえに与えよう。これはな、魔法の石だ。怪我をしたときには怪我を治してくれる。病気になったときには病気を取り除いてくれる。困ったときにはおまえを守ってくれるだろう。大事にするんじゃぞ」
そう言って、おじいさんはまた泉の中に消えていきました。

フルートは泉の縁から金の石をひとつ拾い上げました。
すると、石を持っているだけで、さっき鳥に引っかかれた頬の傷が直ってしまいました。
フルートは大急ぎで友だちのところに戻りました。
友だちはまだ、お腹が痛くてうずくまっていました。でも、フルートが金の石を友だちのお腹に当てると、すーっとその痛みが消えてしまいました。
「あれっ!? もう痛くも何ともないぞ!」友だちは大喜び。
そして、フルートと友だちは一緒に森を出て、町に帰っていきました。

町に着くと、たくさんの大人たちがたいまつや武器を持って、今にも出かけようとしているところでした。
何事だろうとフルートたちが驚いていると、大人たちは「おまえたちが魔の森に入っていったというので、これから助けに行くところだったんだ」と言いました。
そして、大人たちはフルートが泉から金の石を持ち帰ったのを見て、びっくり仰天しました。
「泉の精がフルートの勇気を認めたのだろう」と大人たちは話し合い、それから、フルートを「勇敢なフルート」と呼ぶようになりました。


勇者フルートのお話は、これからまだまだ続くけど、今夜はここまで。
続きはまた明日ね。

(2003年1月27日)



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