第20巻「天空の国の戦い」を読んでいただいてありがとうございます。
作者の朝倉玲です。
一作ごとに何かしら挑戦しながら書いている「勇者フルート」シリーズですが、今回はオムニバス形式に挑戦してみました。いくつものエピソードを真実の窓がつないでいます。
その中に共通して存在しているのは「闇の灰」です。外伝19でも語ったとおり、火の山から吐き出された闇を含む火山灰で、一定量以上寄り集まると人々に害をなします。
デビルドラゴンの威力が増すにつれて、こんなふうに世界に闇が蔓延していくことは、連載当初から予定していたことでした。フルートたちが世界を救うために、果敢に闇に立ち向かっていくことも予定通りです。
予定外だったのは、それ以外の人々の反応と行動でした。
世界を暗くおおい、冷害や凶作を招き、悪党と怪物を大量に吐き出してくる闇の灰です。人々はそんな闇に恐れおののき、生きる希望を失いかけて、家の扉を固く閉じて誰かの救いをじっと待っている。当初はそんなふうに展開させるつもりでいました。
けれども、シリーズを連載しているうちに東日本大震災が起き、私が住む福島県では原発事故も起きました。
折からの風に乗って広がり降り注いできた放射性物質に、私たちは恐れました。引きこもって暮らした時期もあります。暮らしていた場所を離れるしかなかった人々もいます。反応や行動はその人の立場やいる場所によって様々でした。
ただ、人々はそんな状況の中で恐れおののき、生きる希望を失い、暗くうずくまりながら誰かの助けを待っていた──わけではありませんでした。
これも、その人によって様々ではあるのですが、もう一度福島を安心して暮らせる場所にしようと、できることを頑張る人が大勢現れました。とても長い取り組みですが、ふるさとを元に戻そうと今も頑張り続けています。決して、ただ怯え諦めているだけではなかったのです。実を言えば、私もその中のひとりでいるつもりです。とても小さな力ですが。
人は非常に大きな困難に出会っても、周囲と協力して乗り越えようとする存在なんだ、と私は考えるようになりました。美談でもなんでもなく、そんなふうに行動するように生まれついているのです。一般的に考えられている以上に、人間は強い存在なのかもしれません。
そんな経験が、闇の灰に立ち向かい、それを打ち消そうと戦う大勢の人々の姿になったような気がします。
さて、今回の話ではシリーズの中でも特に重要なことが判明します。
この物語と次の外伝を区切りに、シリーズは「竜の宝編」からいよいよ最終章の「光と闇の戦い編」に突入していきます。
フルートたちと彼らに協力する人々は、闇の竜に打ち勝つことができるか。
引き続き、はらはらどきどきしながら読んでいただけたら嬉しく思います。
2020年4月13日