夜の中で山は火を噴いていました。
山頂に開いた火口から絶えず炎が上がり、大量の煙が塊(かたまり)になって空に昇っていきます。月も星もない空で、雲は炎に照らされて赤黒く光り、火の粉がきらきらと輝きます。火口からあふれ出した溶岩は、赤く光りながら、蛇のように山の斜面を流れ下っていきます。やむことのない轟音(ごうおん)と震動の中、それは不気味なほど美しい光景です。
すると、火口から、炎と一緒に一匹の獣が飛び出してきました。全身を金の火に包まれ、赤い炎のたてがみと尻尾をなびかせた馬です。蹄(ひづめ)の音を響かせながら、地上を走るように空中を駆け、噴煙から少し離れた場所に立ち止まって火口を見下ろします。
「だめだ、これ以上は進めない。これ以上奥へ行けば、私は消滅してしまう……」
と馬はつぶやきました。男性のようにも女性のようにも聞こえる、不思議な響きの声です。
馬はそのまま頭を東へ向けました。暗い夜の中ですが、馬の目には、空に立ち上った煙が地上に降りそそいでいく様子が、はっきりと見えます。煙の正体は火山灰です。山や森に、灰が雪のように降り積もっています。
「このままではいけない。地上が力を失っていく」
と馬はまた言いました。頭をかしげてしばらく考え込み、やがて大きくうなずきます。
「助けを呼ばなくては。炎にも恐怖にも困難にも負けない強い者ならば、きっとこの狂った山を停められるだろう」
炎の馬は空中を蹴りました。堅い蹄の音が空にまた響きます。
馬は流星のように光の尾を引きながら空を渡ると、西の彼方に遠ざかり、闇夜の中に見えなくなっていきました――。