暗がりの底に闇がうずくまっていました。
闇は絶えずうごめいて、次々と形を変えていきます。
黒い煙のようにいっぱいに広がったと思うと、急速に寄り集まって生き物のようになり、次の瞬間には怪物の姿に変わり、また崩れて水のように流れます。
暗がりの底には誰もいません。ただ闇だけが動き続けています。
と、ふいに闇が大きく伸び上がり、蛇のように長い鎌首を持ち上げました。明かりの見えない頭上をふり仰いで、大きな叫び声を上げます。それは苦痛の悲鳴でした。
けれども、その声を聞く者は暗がりの中にはありません。声は空しく虚空に吸い込まれていきます。
再び崩れた闇は、大きくのたうち、一瞬、巨大な翼に変わりました。真っ黒な羽毛の一枚一枚が、はっきりと暗がりに浮かび上がります。それはすぐに小さくしぼんでまた闇の塊になり、次の瞬間には、まったく別のものに形を変えました。
すると、闇の奥から低い声が聞こえてきました。地の底からはい上ってくるような、うめき声です。
「ニクイ……ニクイ……憎イ……」
恨みのこもった声が繰り返します。
闇がまた形を変えました。暗がりから抜け出そうとするように、上へ上へと伸び上がっていきます。けれども、すすり泣きに似た悲鳴が闇の中から響いたとたん、闇はまた、どっと崩れ落ちました。
その時、闇の奥で、かすかに何かが銀色に光りました。
それはあっという間に黒い闇に飲み込まれ、そのまま見えなくなってしまいました――。