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外伝24「修道女」

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4.祝宴

 「先ほどから何を考えています、白?」

 野太い声に話しかけられて、白の魔法使いは我に返りました。

 そこはロムド城にある南の守りの塔の一階でした。魔法で部屋を広げたホールで、魔法軍団が宴会のテーブルを囲んでいます。

 白、青、赤、深緑、四つの部隊の魔法使いたちは、東と西の二つの戦場でクアロー軍やメイ軍からロムド国を守り抜きました。その働きがめざましかったので、慰労の祝賀会が開催されたのです。戦場に行った魔法使いだけでなく、後に残って都や城を守った魔法使いも出席しています。

 宴もたけなわになっていたので、ホールは大変賑やかでした。誰もが楽しそうにしているのですが、彼らのリーダーである白の魔法使いは、手にしたワインのグラスに口もつけずに、ずっと物思いにふけっていました。その様子を気にして、青の魔法使いが声をかけてきたのです。

 白の魔法使いは答えました。

「大したことではない。ただ、みんな仲が良い、と改めて思っていただけだ」

 なるほど、と青の魔法使いはうなずきました。火酒のグラスを片手に赤い顔をしていますが、実際にはほとんど酔ってはいません。会場の中でも特に賑やかな一角を眺めて言います。

「確かに、部下たちは仲がいいですな。そこに今回はキースやアリアンたちも加わったから、なおさらです」

 武僧が眺める先では、大勢の魔法使いに囲まれて、キースとアリアン、小猿のゾとヨと黒い鷹のグーリーがいました。キースたちは東の戦場での戦闘に加わり、魔法軍団と協力してクアロー軍を撃退したので、魔法使いたちからこの宴会に招待されたのです。

 キースたちの正体は魔法軍団にばれていましたが、それを承知の上で招かれたので、キースたちはとても嬉しそうでした。魔法軍団と同じ料理を食べ、勧められた酒や飲み物を呑みながら、楽しそうに話しています。

「オレたち、すごくすごく嬉しいゾ!」

「オレもだヨ! しくがかいは初めてだけど、すごく楽しいヨ!」

 ゾとヨが話す甲高い声に、魔法使いの一人が答えていました。

「しくがかいじゃなくて祝賀会でしょう? でも、ゴブリンくんたちが言うと、なんでもかわいいわね」

 どっと大勢の笑い声が上がります。

 

 白の魔法使いはそんな光景を見守り、思い出す声になって言いました。

「本当にみんな仲がいい。だが、魔法軍団も初めからこうではなかった。最初の頃には、仲間同士で力を誇示して、魔法戦争を起こしそうなほど争っていた時期もあったのだ」

「私がロムド城に来る前ですな。私が来た頃には、魔法軍団はもうしっかりした戒律で統制されていました。魔法で喧嘩などしようものなら厳罰を食らいましたからな。あなたの手腕でしょう、白」

 と武僧が言うと、女神官は何故か苦笑しました。

「魔法使いは本来、協調することが苦手だ。彼らを統率するためには、厳しい戒律を定めて、容赦なく従わせなくてはならなかった。だが、それでも仲が良いという関係ではなかったのだ。こんなふうに皆で祝宴を開いて賑やかに過ごすなど、当時はとても考えられなかった」

 すると、そこへ長身に長いひげの老人がやってきました。深緑の魔法使いです。白と青の会話を聞きつけていたので、前置きもなく話に加わってきます。

「魔法軍団の雰囲気が良くなってきたのは、青がやって来てかららしいぞ。古株の魔法使いたちが口を揃えてそう言っとる」

「私ですか?」

 と武僧は目を丸くしましたが、女神官はうなずきました。

「その通りだ。私はいつも部下たちに厳しく接してきたが、青は部隊の隔てなく、誰にでも気さくに話しかけていたからな。私は世俗の話が苦手だが、青はそういう話題も得意だ」

「まぁ、得意というより好きなだけです。私は遊びや酒の話が大好物だし、女の話も――ととと」

 武僧は余計なひとことを言いかけて女神官ににらまれ、あわてて口をふさぎました。

 老人は笑いながら話し続けました。

「それだけじゃぁない。青は白に匹敵するほどの魔法の使い手じゃが、白に張り合おうとはせんからな。それどころか、自分から進んで白の後ろに回って背中を守ろうとする。そんな様子を部下たちはよう見とる。隊長がそんな感じでいれば、自然と部下たちだって見ならうようになるもんじゃ」

「いやいや、私は白に匹敵などしていませんぞ。我々は四大魔法使いと呼ばれるが、魔力の面ではやっぱり白が最強だ」

 と武僧は大真面目で否定しました。老人の言う通り、女神官とは絶対に張り合おうとしません。

 

 すると、彼らのすぐそばから声がしました。

「ナラ、テ、ナイ。カラ、ダ」

 やはり話を聞きつけた赤の魔法使いが、いつの間にか青の魔法使いの隣の席に来ていたのです。黒い肌に縮れた黒い髪、子どものような体に大きな金色の猫の瞳をした、異形の魔法使いです。

 深緑の魔法使いはうなずきました。

「そうじゃな。この魔法軍団では、わけへだてはされん。魔法軍団として戦うだけの力があれば、男も女も、子どもも年寄りも、人間か人間でないかさえも関係なしじゃ。陛下がわけへだてなく雇用されるからじゃが、確かにそれも皆が仲良くなる理由かもしれんの」

 彼らから少し離れたところには、キースたちに劣らず賑やかな集団がいました。西の戦場で一緒に戦った赤の部隊と白の部隊の魔法使いたちが、同じテーブルを囲んでいたのです。

 紫の長衣に黄色い巻き毛の少女が息巻いていました。

「あたし、この次こそ、あのランジュールっていう幽霊を死者の国にたたき込んでやるわよ! 死んでるくせに黄泉の門から戻ってくるなんて反則だもの! 絶対に引導を渡してやるんだから!」

「あの幽霊は勇者様たちにつきまとって命を狙ってる危険な奴よ。がんばってね、紫。あたしに協力できることがあれば手伝うから」

 と言ったのは、銀髪に若葉色の長衣を着た娘でした。隣に座った赤錆色の長衣の雪男も、ウーウーとうなって何度もうなずいています。

 その向かいの席では、元祖グル教の姉弟が、魔法医の鳩羽を相手に話していました。

「だからね、これからもあたしたち赤の部隊に出動命令が下る可能性は高いと思うわけよ」

「なにしろ、セイロスに攻撃できるのは、光と闇以外の魔法使いだからな」

「そうだね。他の三つの部隊は大半が光の魔法使いだから、攻撃はセイロスに効きにくい。攻撃は赤の部隊が主導だな。その代わり、守備はなんと言ってもこっちの役目だ」

「いんや、鳩羽には負傷者の治療っつぅ大事な役目もあっぺした。鳩羽がいっから、おらたちは安心して戦えるだよ」

 と言ったのは青緑の長衣を着た河童でした。遠いヒムカシの国からロムドに流れてきた妖怪ですが、彼も立派な魔法軍団の仲間です。信じるものも種族さえも違う魔法使いたちが、ああでもないこうでもないと、敵との戦い方を相談しています。

「頼もしいことだ」

 と女神官はほほえみました。彼女はロムド城に来ると同時に修道女の服を脱いで、魔法使いの長衣を着るようになりましたが、その色はずっと白のままです。

「優秀な我々の部下に乾杯といきましょう」

 と武僧が言い出し、深緑の魔法使いや赤の魔法使いの手の中にワインのグラスが現れました。彼自身のグラスの中身も、いつの間にか火酒からワインに変わっています。

「それでは、魔法軍団がこれからも一致団結して敵と戦い、国を守っていけることをユリスナイに願って」

 女神官のことばに、四人はグラスの縁を合わせました。チリン、と涼やかな音が響き渡ります。

 

 そして、そんな四大魔法使いの様子を、多くの部下たちが見ていました。

「ほぉんと、隊長たちは仲がおよろしいわよねぇ」

 と薄紅の長衣の美女が感心すると、浅黄色の長衣の老婆が笑って答えました。

「そりゃ、隊長たちは世界に名だたる四大魔法使いだし、あたしたちはロムドの魔法軍団だもの。魔法軍団はミコンにもあるけれどね、団結力では絶対にあたしたちのほうが上なはずだよ」

 そうだそうだ、そのとおりだ、と周囲の魔法使いたちが口々に同意しました。その中には、かつて争って魔法合戦を繰り広げたオーエンとレッカーもいました。少し歳をとった彼らは、今はもう穏やかな顔で仲間たちと過ごしています。

 

 中央大陸の大国ロムド。

 その国を昼となく夜となく守り続ける魔法使いたちの、つかの間の祝宴は続いていました――。

The End

(2014年12月7日初稿/2020年4月21日最終修正)

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