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外伝23「答え」

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2.答え

 とたんに、ゼンはベッドの中で目を覚ましました。

 まだ夜が明けていないので、あたりは真っ暗ですが、夜目の利くゼンには部屋の中の様子がよくわかります。横を向けば、隣のベッドでフルートが寝息を立てていました。小柄な少年ではなく、身長が伸び顔つきも少しずつ男らしくなってきた十六歳のフルートです。

 そこはロムド城に準備された彼らの部屋でした。フルートのベッドの下ではポチが丸くなって眠っています。

 なんだ、夢か……とゼンは考えました。四年半も前の、ゼンがフルートと初めての冒険に出かけるときのことを、夢に見ていたのです。ずいぶん鮮やかな夢でした。父親が自分たちに言い聞かせた声が、まだ耳の底にはっきり残っています。

「すべての答えは自分の中にある、か」

 とゼンはごく小さな声で繰り返しました。あの日には意味がよくわからなかったドワーフのことわざですが、どうして父がそんなことを言って聞かせたのか、今ならなんとなく理解できる気がします。

「親父は俺が人間の世界で大暴れするのを心配してたんだろうな……。人間のやり方が気に入らねえ、って言ってよ」

 なにしろ素手で熊も殴り殺せるゼンです。怒って暴れ出したら、どれほどの被害が出るか知れないのですから、父親が心配するのは当然でした。実際に激怒して、フルートたちに止めてもらったことも、何度もあります。

 

 ゼンは苦笑してベッドの上に起き上がりました。眠気は覚めていました。毛布の下であぐらを組んで頬杖をつくと、隣のベッドのフルートを眺めます。

 ゼンがひとりごとを言っても、フルートは目を覚ましませんでした。ベッドの下のポチもぐっすり眠っています。

「だよなぁ……こいつのせいじゃなくて、俺のほうの問題なんだ」

 とゼンはまたつぶやきました。今度は日中のやりとりを思い出したのです。

「セイロスの中にはまだ人間の心がある」

 とフルートは仲間たちに言ったのです。

「セイロスは確かにデビルドラゴンとひとつになってしまったけれど、充分に力を発揮できないでいる。それに彼は最後の最後にギーを助けた。完全に闇の竜になったのなら、あの場面で部下を助けたりはしないはずなのに。セイロスの中にまだ人間の心が残っている証拠だ──。それなら、ぼくはそれをよみがえらせたい。セイロスを人間に戻してやりたいんだ」

 そんなことができるはずはない! 甘すぎるぞ! とゼンたちがどんなに説得しても、フルートは自分の考えを曲げようとはしませんでした。こうと決めたらとことん自分の考えを貫く頑固さは、何年たっても変わりません。

 フルートがあまり言うことを聞かないので、ゼンはすっかり腹を立て、こんな石頭野郎はもう知るもんか! と怒りながらふて寝してしまったのです。

 

 ふぅ、とゼンは溜息をつきました。フルートの寝顔を見つめながらまたつぶやきます。

「結局、こいつも風ってことか。風が俺の思い通りに吹かなくたって、風に文句を言うわけにはいかねえんだよな――」

 とにかく頑固で底抜けにお人好しのフルートです。そんな性格はどうしたって変わることはないのでしょう。だとしたら、変わらなくてはいけないのは自分だということです。

 ゼンは頬杖をつきながら、ひとりごとを言い続けました。

「セイロスを闇から引き戻せるかどうかは、やってみなくちゃわかんねえ。あいつは救いようのねえ本物の悪党で、世界中をめちゃくちゃに破壊しようとするかもしれねえんだからな。そうなりゃフルートは体を張ってそれを止めようとするだろう。こいつはそういう奴なんだから――。その時には、俺だって体を張ってフルートを守ってやる。絶対にこいつは死なせねえ。それが俺の答えだ」

 とたんにフルートが動きしました。軽く寝返りを打つと、また規則正しい寝息をたて始めます。

 フルートが目を覚ましたのかと思って身構えたゼンは、苦笑いして肩の力を抜きました。とたんに自分もまた眠くなってきて、ごろりと仰向けになります。

 ゆっくりと訪れてきた眠りに朦朧(もうろう)としながら、ゼンはさっき夢に見た場面の続きを思い出していました。

 すべての答えは自分のほうにあるんだ、と言った父親に、ゼンはこう聞き返したのです。

「なあ、親父、そう言ったって、中には俺一人ではどうにもならないことだってあるはずだろう? 俺がどんなにがんばったってさ。そういうときにはどうしたらいいんだよ?」

 すると、父親は急に笑いました。

「簡単なことだ。自分一人ではどうにもならないと思ったら、仲間を集めろ。一人では狩れない大熊や大猪(おおいのしし)でも、仲間がいれば捕まえられるからな」

「ちぇ、フルートは猪かよ?」

 夢うつつの中でゼンは父親に言い返しました。本当に声に出して言ってしまったかもしれません。思い出の中の父親は、いかついひげ面に愉快そうな表情を浮かべているだけです。

「仲間ならいるさ。あいつの周りに大勢な――」

 そう言いながら、ゼンはまた眠りに落ちていきました。

The End

(2014年3月26日初稿/2020年4月16日最終修正)

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