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外伝18「脱出」

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1.占い師の店

 「金の石の勇者と仲間たちが、このカルドラにやってきて我が軍の出撃を妨害した。それは知っているな?」

 丈の長いマントをはおった男は、横柄な態度で老婆に尋ねました。マントの下に着込んでいるのはカルドラ海軍の隊長の制服です。

「連中は我々の船に大きな損害を与え、海神ルクァの怒りを買って海の主(ぬし)と激戦を繰り広げたあげくに、姿をくらましてしまった。だが、連中がセイマの港や街から出て行ったという情報は入っていない。連中はまだこのセイマにいるはずなのだ。それをおまえに占ってもらいたい。できるな?」

 男と老婆がいるのは、セイマの街の裏道に面した小さな家の一室でした。薄暗い部屋では小さなランプが燃え、男と老婆とテーブルに並ぶカードを照らし出しています。ここはカルドラでも屈指の占い師の店でした。カルドラ海軍の隊長も、知りたいことがあるときには、こうしてわざわざ足を運ぶのです。

 老婆は小柄で、黒いフード付きの長衣を着込んでいました。曲がった鼻の頭に大きないぼがあり、目は片方だけまぶたが半分閉じていて、なんだか占い師と言うより魔女と呼びたい雰囲気です。隊長の話に、ふぅん、と気のない返事をして言います。

「元日に金の石の勇者が派手に暴れたのは、もちろん知っているけどね。連中が戦ったのは海の主なんかじゃなかったんじゃないかい? 私のカードには、もっと危ないものが襲ってきていたって出ていたんだけどねぇ」

「あれは海の主だぞ! 海神ルクァが遣わした海の巨人や大蛇だったのだ! それに武器を向けて海へ追い返してしまったのだから、金の石の勇者というのは、まったくとんでもない連中だ。このままでは我が国がルクァの怒りを買うことになるかもしれん。即刻連中を見つけ出して逮捕しろ、という国王陛下のご命令なのだ!」

 と隊長は口から泡を飛ばしながら言いました。

「ふぅん、国王陛下がね」

 と老婆は答えました。相変わらず気のないような声ですが、半分閉じたまぶたの下で、瞳がきらっと抜け目なく光ります。

「陛下のご命令じゃ、従わなくちゃいけないよねぇ。待ちな、今占ってあげるから。私ゃ世界でも屈指の名占い師なんだ。すぐに探しているものも見つけ出してあげるさ」

 そんな話をしながら、老婆はテーブルからカードを取り上げて切りました。意味ありげな手つきで、カードを並べていきます……。

 

 やがて、老婆はカードを表に返しながら、ほほぅ、ふぅん、と言い出しました。隊長が焦れてきた頃に、おもむろに言います。

「金の石の勇者たちがいるのは、港から数えて八番目の通りのどこかだと出てきたよ。通りの建物のどこかに隠れているんだろうね。私がさらに占えば、どこに隠れているのかもわかるけどね?」

 と意味ありげに隊長を見上げます。もっと詳しく占うから、占い料を奮発しろ、と催促しているのです。

 隊長は口をへの字にすると、椅子から立ち上がりました。

「いや、それだけわかればもう充分だ。八番通りをしらみつぶしに調べればいいことだからな。何かあったら、また来る。邪魔をしたな」

 と規定の占い料をテーブルに残して、足早に店を出て行きます。

 ふん、と老婆は不満げに鼻を鳴らしました。

「けちな男だこと。カルドラ王の命令で来たわけじゃなかったんだね。もっとふんだくれるかと思ったのにさ」

 そうひとりごとを言う老婆は、いつの間にか両目をぱっちり開けていました。いまいましそうにしばらく考え込んでから、店の奥へ呼びかけます。

「ガンダ! ちょっとおいで、ガンダ!」

 すぐに、浅黒い肌の太った男が奥から走り出てきました。なんですか? と聞き返します。

「イリーヌの店に情報を売りに行っておいで。金の石の勇者たちを探して海軍がやって来る、ってね。情報料は金貨三枚。これより少なかったら、絶対に教えるんじゃないよ」

 老婆に言われて、ガンダという男はすぐに外へ出て行きました。それを見送って、老婆は一人で話し続けます。

「金の石の勇者たちがイリーヌの店から出て行ったって情報はまだ入ってきてないからね。言い値の通りに金を払ってくるはずさ。こっちからもらい損ねた分は、あっちから補ってもらわなくちゃ。なにしろ、情報だって、ただで手に入ってるわけじゃないんだから」

 ヒヒヒ、と嫌らしく笑う老婆は、占者と言うより守銭奴と呼ぶのがふさわしく見えていました――。

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