「目黒のさんま」   カンガー


秋の一日、ある大名が、家来をつれて、遠乗りにでかけた。
昼近くになって、そのころはまだ江戸の郊外だった目黒についた。
大名がお腹がすいたというので、家来がさんまを焼いていた家の主人にたのんで、昼食をごちそうになる。
殿様は生まれてはじめてさんまを食べた(下魚だから)。
空腹の時に、脂ののったさんまを食べて、殿様は大満足した。
さんまの味が忘れられないが、お城ではさんまは出てこない。
そんな時、親戚におよばれで出かけた時、「何かお好みのお料理はございませんか。なんなりとお申し付けくださいませ。」と御家老に言われたので、さんまをリクエストした。
はじめは家老はわからなかったが、いろいろ調べてわかったので、さっそく日本橋魚河岸から最上等のさんまをとりよせたが、このように脂の多いものをさしあげて、もしもお身体にさわっては一大事というので、十分に蒸して、小骨なんかは毛抜きで丁寧に抜いて、さんまのだしがらのようなものをつくりあげた。
「殿、御注文のさんまです。」
「なに、これがさんまと申すか、ばかに白いではないか、たしかもっと黒くこげていたように思ったが」
「いいえさんまに間違いありません」
「さようか、どれどれ、う〜んこのにおいはまさしくさんまじゃ、これさんまよ、恋しかったぞ」
殿様感涙にむせんでひとくち召し上がったが、ぱさぱさのさんまはおいしくなかった。
「これがさんまか?」
「御意」
「ふ〜ん、このさんま、いずれよりとりよせたのじゃ」
「日本橋魚河岸にござります」
「あっ、それはいかん、さんまは目黒にかぎる」




お話の部屋へもどる