ぼくは、おそるおそる目を開けた。
いつの間にか目をつぶってしまっていたらしい。
思った通り、そこは博物館の中庭だった。目の前に、柵に囲まれた黒い岩が立っている。
恐竜たちが眠る前にぼくたちを送り届けてくれたんだ、とぼくは思った。
どうやったのかは分からないけれど、とにかく、そうなのに違いなかった。
ショウはまだ目を堅くつぶったまま、ぼくにしがみついていた。もう大丈夫だよ、と肩を揺すぶると、ショウは目を開けて、不思議そうにあたりをきょろきょろ見回した。
「恐竜は? どこに行ったの?」
ぼくは足元の地面を指さして見せた。
「ここのずっと下の方で眠っているんだよ。誰にも邪魔されないように、深い深いところでね」
その時、遠くからぼくたちを呼ぶ声が聞こえた。
見ると、お父さんが建物から出てきて、こちらへかけてくるところだった。振り返って「ここにいたぞ!」と手を振っている。追いかけて出てきたのは、お母さんだった。
そうだ。ぼくたちは迷子になったショウを探し回っていたんだ。
お母さーん! とショウが走りだそうとするのを、ぼくは腕をつかんで引き戻した。
「いいか、ショウ。恐竜のことは、お父さんとお母さんには内緒だぞ」
「ないしょ……?」
不思議そうにショウが見返してくる。
「うん、内緒だ。お父さんとお母さんなら信じてくれるかもしれないけどさ、他の人たちに言ったって、誰も恐竜のことなんて信じてくれないんだから。それに、恐竜たちだって、ご主人に会えるときまで、静かに眠っていたいに決まっている。だから、内緒だ。誰にも言っちゃダメだぞ」
「わかった」
ショウがうなずいて、ぱっとかけだした。
もうすぐそばまで来ていたお母さんに飛びついて、叫ぶ。
「お母さん、お母さん! ぼくね、がんばったよ!」
あっ、ショウの馬鹿! 秘密だって言ったばかりなのに……!
案の定、お母さんが聞き返してきた。
「あら、何をがんばったの?」
「ないしょをね、がんばった!」
ぼくは思わず吹き出しそうになるのを、やっとのことで我慢した。
お父さんとお母さんが、不思議そうにぼくの顔を見てくる。ショウは何を言っているんだい、と聞きたいんだ。
「さあ? ぼくにもわからないよ」
と、わざとらしく肩をすくめてみせると、お父さんたちもそれで聞くのを諦めたようだった。
ぼくは空を見上げた。
青空の中で太陽が輝いている。
作り物なんかじゃない、本物の空と太陽だ。
あと250年したら、恐竜たちもこの本物の空を見るんだろうな、とぼくは考えた。
ぼくたちはその日まで生きていることはできないけれど、でも、ショウもぼくも君たちのことはずっと秘密にしておくよ。
だから、安心しておやすみ、恐竜たち。
君たちのご主人に会える、その日まで。
ぼくは心の中でそう話しかけると、お父さんやお母さん、ショウの後を追って歩き出した。
「おやすみ」
遠い遠い地の底から、恐竜たちがそう答えたような気がした。
――The End――