恐竜の祭り

朝倉 玲

Asakura, Ley

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4

 ぼくは、おそるおそる目を開けた。

 いつの間にか目をつぶってしまっていたらしい。

 思った通り、そこは博物館の中庭だった。目の前に、柵に囲まれた黒い岩が立っている。

 恐竜たちが眠る前にぼくたちを送り届けてくれたんだ、とぼくは思った。

 どうやったのかは分からないけれど、とにかく、そうなのに違いなかった。

 

 ショウはまだ目を堅くつぶったまま、ぼくにしがみついていた。もう大丈夫だよ、と肩を揺すぶると、ショウは目を開けて、不思議そうにあたりをきょろきょろ見回した。

「恐竜は? どこに行ったの?」

 ぼくは足元の地面を指さして見せた。

「ここのずっと下の方で眠っているんだよ。誰にも邪魔されないように、深い深いところでね」

 

 その時、遠くからぼくたちを呼ぶ声が聞こえた。

 見ると、お父さんが建物から出てきて、こちらへかけてくるところだった。振り返って「ここにいたぞ!」と手を振っている。追いかけて出てきたのは、お母さんだった。

 そうだ。ぼくたちは迷子になったショウを探し回っていたんだ。

 

 お母さーん! とショウが走りだそうとするのを、ぼくは腕をつかんで引き戻した。

「いいか、ショウ。恐竜のことは、お父さんとお母さんには内緒だぞ」

「ないしょ……?」

 不思議そうにショウが見返してくる。

「うん、内緒だ。お父さんとお母さんなら信じてくれるかもしれないけどさ、他の人たちに言ったって、誰も恐竜のことなんて信じてくれないんだから。それに、恐竜たちだって、ご主人に会えるときまで、静かに眠っていたいに決まっている。だから、内緒だ。誰にも言っちゃダメだぞ」

「わかった」

 ショウがうなずいて、ぱっとかけだした。

 もうすぐそばまで来ていたお母さんに飛びついて、叫ぶ。

「お母さん、お母さん! ぼくね、がんばったよ!」

 あっ、ショウの馬鹿! 秘密だって言ったばかりなのに……!

 案の定、お母さんが聞き返してきた。

「あら、何をがんばったの?」

「ないしょをね、がんばった!」

 ぼくは思わず吹き出しそうになるのを、やっとのことで我慢した。

 お父さんとお母さんが、不思議そうにぼくの顔を見てくる。ショウは何を言っているんだい、と聞きたいんだ。

「さあ? ぼくにもわからないよ」

 と、わざとらしく肩をすくめてみせると、お父さんたちもそれで聞くのを諦めたようだった。

 

 ぼくは空を見上げた。

 青空の中で太陽が輝いている。

 作り物なんかじゃない、本物の空と太陽だ。

 あと250年したら、恐竜たちもこの本物の空を見るんだろうな、とぼくは考えた。

 ぼくたちはその日まで生きていることはできないけれど、でも、ショウもぼくも君たちのことはずっと秘密にしておくよ。

 だから、安心しておやすみ、恐竜たち。

 君たちのご主人に会える、その日まで。

 ぼくは心の中でそう話しかけると、お父さんやお母さん、ショウの後を追って歩き出した。

 「おやすみ」

 遠い遠い地の底から、恐竜たちがそう答えたような気がした。

 

――The End――

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