「Let's 幽霊ing!」
朝倉玲
  1章 出会い

あなたも未知の体験へ
Let's 幽霊ing
(レッツ ユーレイング)


当ユーレイング・トラベル社は、完全ガイド対応制。
経験豊富なコンダクターが同行いたしますので、
どなたでも、安全にユーレイングが体験できます。

※なお、ユーレイング・システムによる幽体離脱体験ツアーは、
 法律により、15歳未満の方の参加が禁止されております。ご了承ください。


日常からの離脱 〜幽霊ing(ユーレイング)のすすめ〜


毎日が単調で刺激がない。
自分の生活をこれまでとは違った視点から見てみたい。
本当の自由を味わいたい。
開放感が欲しい。
空を飛んでみたい。
霊現象に興味がある。

そんな方はぜひ一度、当社のユーレイングをご体験ください。
1時間コース、3時間コース、6時間コース、半日コースと内容は豊富
行き先もお客様のご希望に合わせてコーディネイトいたします。
当社ユーレイング・ツアーは完全ガイド制。
安心して非日常の体験をお楽しみいただけます。

【!】 あなたの健康を損ねるおそれがありますので、ユーレイングのやりすぎにはご注意ください。


わたし、今日から大人です。だ・か・ら・・・
二十歳(はたち)の献魂


事故や病気が原因で、今日も世界中のたくさんの人たちが健康な魂を必要としています。
献魂は一度にたったの200バイタル。
痛みはまったくなく、日常生活に影響を及ぼすこともありません。
あなたの健康な魂をほんの少し、優しさと一緒にわけてください。

献魂は18歳からできます。

日本赤十字社 献魂事業部


 待合室に何枚も貼ってあるユーレイング関係のポスターを、俺は見るともなく眺めていた。

 俺のユレコン(ユーレイング・コンダクター)が携帯で呼び出されていってから、もう10分になる。俺は6時間コースだから時間には余裕がある方だけれど、ユーレイングするのは初めてだし、ずっとベッドから動けなくて飽き飽きしていたから、早く外に出てみたくてしかたないんだけどな。
 早く帰ってこないかな、ユレコン。あと5分待っても戻ってこなかったら、俺は一人で出かけるぞ。

 暇つぶしに、俺はまた部屋の中を一回りしてみた。
 空を飛ぶのは簡単だった。ただ、飛ぼうと思うだけで体は宙を飛び回っていたし、自由自在に方向も変えられた。最初、勢い余って壁に激突しそうになったけれど、ぶつかる! と思った瞬間、俺の体は壁を突き抜けて、向こう側の廊下に飛び出していた。
 体は本当に軽い。ふわふわと空気みたいで、全然引力を感じない。ベッドの中ではいつも体が重くてだるくて、食事の時に起きあがるのさえ大変だったのに。
 痛みも全然ない。気分は爽快。最高だ!

 目の前に腕をかざしてみる。俺の目には腕が見える。でも、普通の人たちには、俺の姿は見えないんだよな。俺は今、完全な幽体になっているんだから。
 ・・・ということは、念願の女子更衣室ものぞけるし、十八禁の映画だって、誰にも叱られずに堂々と見られるということで・・・ぐふふ・・・

 とたんに、馬鹿にするような女性の声が飛んできた。
「ざぁんねんでした。のぞかれちゃ困るような場所は、アンチ幽体システムでガードされているのよ。ASS指定区域って呼ばれるんだけどね」
 俺はぎょっとして声の方を見た。見知らぬ若い女性が、部屋の中に浮かんでいた。白いひらひらした、ドレスのような服を身につけ、白いローヒールを履いている。髪はショートカット、かなりの美人だ。
 俺が目をまん丸にしていると、空中の美女はまた馬鹿にするように笑った。
「あんたの頭の中なんて読んでないわよ。若い男の子が初ユーレイングするときって、みんな考えることが同じなんだもん。顔を見ればすぐ分かるわよ。あたしは篠崎みゆき。みっきでいいわ。あんたを担当するはずだった鈴木麻子が、急に都合悪くなったものだから、代わりにあんたのユレコンをすることになったの。よろしくね♪」

 よろしくね、とにっこりされて、俺はまた穴が空くほど相手を見つめてしまった。
 こんな若い女がガイド? 年なんて、俺より2,3歳しか上じゃないだろう? 話し方からして、いかにも新人って感じだぞ。ホントに大丈夫なのかよ・・・

 すると、篠崎みゆきは俺の腕をいきなりつかんで、上昇を始めた。
「さぁさ、時間は限られているんだからね。後になって、あれもこれもしておけば良かった、なんて未練を残さないように、思う存分ユーレイングを楽しまなくちゃ♪」
 一方的にそういうと、彼女は俺をつかんだまま天井を突き抜け、上の階を突き抜けて外に飛び出していった。


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