フルートの冒険・12 〜一角獣伝説の戦い〜

66.目的


 皇太子の部屋に現れた魔獣使いのロダに、勇者たちは身構えました。
「金の石を返せ!」
 叫ぶフルートの足下でポチがうなり、後ろでオリバンとセシルが剣を抜きます。
 灰色のネズミがペンダントをくわえたまま、ちょろりとロダの肩に駆け上がりました。よく見ると、ネズミではなく、狐(きつね)にそっくりの姿をしています。
「戻れ」
 とロダが言うと、狐はその手の中にぽとりとペンダントを落として消えていきました。ロダの服の腰のあたりです。ベルト代わりに締めた帯に、短い金属の筒が笛のように下がっていました。
 ロダはペンダントを目の前に掲げると、金に光る石を眺めて言いました。
「これが聖なる守りの魔石か。ずいぶんと小さなものだな」
 その瞬間、フルートはまた叫びました。
「光れ!」
 すると、それに応えて魔石が輝きました。部屋中を金色に照らし、ロダに聖なるの光を浴びせます。
 けれどもロダは動じませんでした。まぶしそうに目を細めますが、光を浴びて溶け出すこともありません。
「ワン、やっぱりロダにデビルドラゴンが乗り移ってるわけじゃないんだ。だから金の光を浴びても平気なんですよ!」
 とポチが言いました。それを確認するためにフルートが石を光らせたのだと気がついていました。
「では、奴はどこだ!?」
 とオリバンが言います。鋭い目で部屋中を見回しますが、光に照らされた部屋のどこからも、影の竜は姿を現しません。やがて、光は吸い込まれるようにおさまって、石はまた穏やかな金色に戻ってしまいました。

 「おまえの目的は何だ、ロダ!? メイの王室を乗っ取って、この国を支配するつもりか!?」
 とフルートが尋ねると、ロダはあざ笑う顔になりました。
「くだらんな。メイは隣のサータマンと喧嘩しているのが似合いの弱小国だ。どうせならば、この中央大陸の支配。さらには世界中の支配。ザカラス、ロムド、エスタ。この三大国を私のものにする。そうすれば、中央大陸を制覇するのはたやすいことだ。さらに東のユラサイや南大陸まで、私の王国にすることができる。メイはそのための足がかりだ。ジタン山脈の魔金を資金に、世界中を我がものにしてやる」
 あまりに傲慢なロダの野望に、フルートたちは逆に何も言えなくなりました。セシルだけが驚いた顔になります。
「ジタン山脈の魔金だと――? そんなものが、あそこにあったのか!? それで、義母上は異例のロムド出兵などをしたのか!」
 オリバンは静かに言いました。
「ジタンはドワーフとノームと我々で守った。今も、大地の子たちが守り続けている。あの山の恵みは彼らのものだ。人間の思い通りになどすることはできん」
 足下ではポチがうなり続けていました。
「ワン、本当に魔王みたいなことを言うんですね。そこをデビルドラゴンにつけ込まれたんだ。奴はどこです!? あなたは闇の竜にだまされているんですよ!」
 デビルドラゴンの本当の狙いは、すべての命を絶望に陥れて破滅させることです。デビルドラゴンの力で世界の王になっても、その王もまた、滅亡の運命からは逃れられないのです。けれども、権力を望む者たちは、その大きな矛盾に気がつきません。ロダもそうでした。
「あの竜を見つけることは、貴様たちにはできん。誰にも見つからない場所から、貴様たちを打ちのめして全滅させるぞ!」
 と笑うように言います。それは、ロダが初めてデビルドラゴンの存在を認めたことばでした。

 「金の石を返せ!」
 とフルートはまた叫んでロダに飛びかかっていきました。とたんに、吹き飛ばされて床に倒れます。魔法で弾き返されたのです。
 ところが、その隙にポチが大きく飛び上がっていました。ロダに正面から襲いかかって、顔にかみつきます。不意を突かれたロダが叫んでポチを払いのけます。
 すると、かまれて血が流れ出した顔から、みるみる傷が消えていきました。ロダが手にしている金の石が彼を癒してしまったのです。馬鹿者! とオリバンが思わず声を上げますが、それはどうしようもないことでした。闇の存在でない限り、金の石はすべての生き物を癒してしまうのです。
「これは便利な代物だな」
 とロダが笑いながらまたペンダントを掲げました。それがある限り、いくら攻撃してもロダは傷つかないのです。すると、その目の前で、すうっと石が光を失っていきました。金色の石が灰色の石ころのようになってしまいます。
 ほう、とロダは言いました。
「あくまでも、私を癒すのは嫌だと言うわけか。だが、石が眠りについたならば、なお好都合。邪魔な守りの石など、こうしてくれる」
 ロダの手の中から魔法の光がわき起こり、金のペンダントを包み込みました。とたんに、花と草を刻んだ縁取りと長い金の鎖がばらばらになりました。石ころに変わった金の石も、真っ二つになって床に落ちます――。

 一同は立ちすくみました。フルートが真っ青になって叫びます。
「金の石!!」
 割れた金の石に飛びつこうとすると、またロダの魔法で跳ね飛ばされました。小柄な体が部屋の壁にたたきつけられます。
「ワン、フルート!」
 駆けつけようとしたポチにも魔法の弾が飛んできたので、子犬があわてて身をかわします。
 オリバンは駆け出しました。剣を抜き、ロダの首を跳ね飛ばそうとします。
 とたんにロダの姿が消えました。次の瞬間、天蓋のついたベッドの脇に現れて言います。
「動くな! 動けば皇太子の命はないぞ!」
 魔獣使いの男はいつの間にか鋭い短剣を握っていました。ベッドのカーテンを大きく引き開け、その切っ先を皇太子の胸に向けます。皇太子は苦しそうな息をして横たわっているだけです。
 オリバンもセシルもポチも、その場から動けなくなりました。フルートも、床から身を起こしたまま立ち上がれなくなります。
 セシルが叫びました。
「ハロルドを殺して、おまえが無事でいられるものか! おまえは大逆者になるぞ、ロダ!」
「そんな心配は無用だ。なにしろ、ハロルド皇太子はエミリア王女とそれに荷担する金の石の勇者たちに殺されるのだからな」
 とロダが薄笑いで答えます。なに!? とセシルは顔色を変え、フルートやオリバンは歯ぎしりをしました。ロダは皇太子を殺して、その罪を彼らにかぶせようとしているのです。

 ロダは言い続けました。
「私の進む道を邪魔しているのは、王女と金の石と勇者の一行。このうち、金の石はもうなくなった。あとは王女と勇者どもに消えてもらうだけだ」
 ゆっくりと片手を上げて手のひらをセシルへ向けます。魔法を繰り出す構えです。真っ青になったセシルを、オリバンが、ぐいと引きました。かばうように自分が前に出ます。
「彼女は殺させんぞ、ロダ!」
「無駄なことだ。貴様に魔法を防ぐ手段はない。王女と一緒に死ぬがいい」
 そのまま二人まとめて魔法の弾で撃ち抜こうとします。
 とたんに床からフルートが跳ね起きました。オリバンとセシルの前に飛び出して、左腕の盾を突き出します。ロダが撃ち出した魔法が盾の表面で炸裂し、反動でフルートは吹き飛びました。オリバンやセシルと一緒にひっくり返ってしまいます。
 そんな一同にロダはまた手を向けました。魔法の弾を繰り出そうとします。
 そこへポチが飛びかかっていきました。衣の上からロダの腕にかみつきます。
「この――!」
 ロダは怒ってポチを捕まえ、魔法をたたき込みました。ギャン! と悲鳴を上げて、子犬が床に落ちます。
「ポチ!」
 フルートはまた跳ね起き、ついに背中から剣を抜きました。銀色のロングソードです。ロダがまた撃ち出した魔法をかわして床を蹴り、宙を飛んで剣を振り下ろします。銀の刃が弧を描き、魔獣使いを頭から真っ二つにします――。

 ところが、そのとたん、魔獣使いの姿がまた消えました。何もいなくなった場所には、血の一滴も落ちてはいません。
「どこだ!?」
 とオリバンが飛び起きました。ポチもよろめきながら立ち上がります。全員が部屋の中を見回しますが、ロダはどこにも見当たりません。

 すると、いきなりセシルが駆け出しました。皇太子のベッドの上で何かが動いたのに気づいたのです。
 それは、たった今までロダが握っていた短剣でした。空中に浮かんで、まっすぐ皇太子の胸に狙いをつけています。
「ハロルド!」
 セシルは悲鳴のように叫んで、皇太子の上に自分の体を投げ出しました――。










素材提供 STAR DUST