「勇者フルートの冒険」シリーズのタイトルロゴ

始まりの物語「魔法の金の石」

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あとがき

 初めてこの物語をお読みくださった方、どうもはじめまして。

 これまでずっと読んでくださっていた皆様、いつも本当にありがとうございます。

 作者の朝倉玲です。

 

「勇者フルートの冒険」の連載が始まってから十数年がたちましたが、その間にインターネットを取り巻く環境は大きく変化しました。

 中でも大きかったのは、デバイスの主流がパソコンからスマホやタブレットになったことでした。「フルート」はパソコン用に作ったサイトだったので、特にスマホからはとても読みにくくなってしまいました。

 そこで一念発起。独学で勉強して、このたびどうにか「フルート」をHTML5に切り替えることができました。え、HTML5ってなんだって? え~と……サイトをパソコンからもスマホ・タブレットからも読めるようにできる仕組みだと思ってください。(ものすごい単純化!)

 HTML5化するにあたって、ページのデザインもできるだけシンプルにしました。読みやすくなっていると良いのですが……。

 

 さて、ご存じの方はご存じですが、私には発達障害を持つ息子がいます。

 名前を昇平と言います。

 今もいくらか困難を抱えていますが、小さい頃は特にことばの発達に遅れがあっていて、コミュニケーションがとるのがとても大変でした。

 自分の気持ちを伝えたり、人の話を聞いて理解したりできるように、ことばを身につけてほしい。でも、どうすればいいんだろう? 考えてもわからなかったので、診察の際に主治医に尋ねてみました。

「昇平にことばを覚えてもらうのに、なにか良い方法はないでしょうか?」

 すると、主治医が言いました。

「お話を聞かせるのがいいですよ。それも、できれば絵本や本を見ながらではなく、耳から聞くような、物語のCDなんかがいいですね」

 え、耳から聞く物語ですか……?

 いまでこそ、すっかり落ち着いた彼ですが、当時はちょろちょろのチョロ助さんで、起きている間は片時もじっとしていませんでした。絵本を読み聞かせようとしても、本を私から取り上げてパーッとめくって眺めてそれでおしまい! という感じ。物語のCDをかけてあげたとしても、そばでじっと聞いてなんていないだろう、と容易に想像がつきました。

 

 でも、物語を聞いて楽しむというのは魅力的な提案でした。私は物語やお話が大好きで、子どもに本の読み聞かせをするのも楽しくてしかたなかったのです。

 長男の時のように、次男の昇平とも物語を楽しみたい。物語は楽しいんだよ、ということを昇平にも知ってもらいたい。

 そこで考えて、彼がよく知っているアニメのキャラクターを登場人物にして、短いお話を作りました。みんなで海辺にピクニックに行って、お弁当を食べて帰ってくる──ただそれだけのシンプルな内容でした。

 語り聞かせの最中に昇平がどこかへ行ってしまわないように、お話は夜寝るために布団に入ってから、部屋の明かりを落とした状態ですることにしました。暗くて何も見えないので、私の話に集中してくれるはず、という作戦でした。

 作戦は当たって、彼はピクニックの話をとても気に入り、毎晩聞きたがるようになりました。そのたびに登場人物が増えていって、最終的には八人(八匹?)くらいでピクニックに行く話になったように記憶しています。

 やがて、昇平が他の話も聞きたがるようになったので、私は昔話や童話を片っ端から語るようになりました。とはいえ、部屋が暗いので本を読むようなわけにはいきません。記憶を頼りに語るので、途中でストーリーを忘れてしまうこともしょっちゅうで、そんなときには適当に話をでっち上げて、つじつま合わせをしました。昔から小説は書いていたので、このあたりはお手のものです(笑)

 

 そうするうちに、昇平はかなり長い物語も楽しめるようになり、それと反比例して、私はネタ切れになってきました。

 う~ん、困った。今夜語るお話がもうないぞ。どうしよう……。

 そう考えて、はっとひらめきました。

 そうだ! 最初の頃みたいに私がお話を作って聞かせればいいんだ!

 当時、彼はお兄ちゃんの影響でRPGのゲームに夢中でした。それじゃ設定はRPG風のファンタジーにして、主人公は昇平と同じ男の子で、子どもだけど勇敢ということにして……。

 そうして生まれてきたのが「勇者フルートの冒険」という物語でした。

 もちろん、最初はただの寝物語だったので、とても単純なストーリーでした。昇平にも参加してもらいたかったので、登場人物の名前は彼に考えてもらいました。フルートや、この後登場してくるゼン、ポチ、ポポロといった名前は、彼が名付けたものです。

 一晩だけで終わりになるかと思ったのですが、昇平がとても気に入ったので、二晩、三晩と物語を重ねていって、最終的には十二晩も語り聞かせました。この「始まりの物語~魔法の金の石~」は、最初の晩に語り聞かせた内容です。(残りの十一回分は第一巻「黒い霧の沼の戦い」になっています。)

 その後、せっかく作ったお話が消えていくのももったいないと思って、サイトに連載を始めたら、常連さんのお子さんたちが一緒に楽しみ始めました。昇平も続編を希望したので、今度は「勇者フルートの冒険 風の犬の戦い」というお話を語り聞かせてサイトに連載し、それも好評だったので今度は三作目を連載し……

 気がつけば、少年勇者フルートの物語は、子どもだけでなくファンタジー好きの大人まで読みに来てくれるシリーズものになっていました。

 この当時の物語は、オリジナル版としてサイト内に収録してあります。

 

 オリジナル版の連載は1年10か月ほど続きましたが、その後いろいろ考えて、大人も読んで楽しめる本格的ファンタジーに書き直すことにしました。

 それが今読んでいただいているこのシリーズです。

 今回、HTML5化するにあたって、ずっとやりたかった「始まりの物語」の加筆修正を行いました。以前の作品を読んでいた方は、どのあたりの場面に加筆されたか探してみるのも面白いかもしれません。

 昇平のために生まれてきた「フルート」も、今では読んでくださる皆様のための物語です。

 物語の扉を開いて一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

2020年2月26日

朝倉玲のサイン
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